ポートレイト
コンラート・ローレンツ—動物行動学の創設者
渡辺 茂
1
1慶應義塾大学
pp.1109-1113
発行日 2016年9月1日
Published Date 2016/9/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416200558
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出会い
1970年,春まだ浅いミュンヘン郊外ゼーヴィーゼンのマックス・プランク行動生理学研究所にコンラート・ローレンツ(Konrad Lorenz;1903-1989)博士(Fig. 1)を尋ねた。僕は学部を卒業したてでその春から大学院に進学することが決まっていた。横浜からソ連の貨物船でナホトカに行き,ハバロフスクからシベリアを経ての長旅だった。秘書に来意を告げると,午睡から醒めるまで,少し待って欲しいとのことだった。ほどなく,写真でみるとおりの大柄のローレンツ博士が現れ,握手を交わした。力強い大きく暖かい手だった。居間には愛犬が寝そべり,ゼーヴィーゼンの池を再現した大きなアクアリウムがあった。博士と親しかった指導教授の紹介状があるとはいえ,つまりは学部4年生に過ぎない僕にローレンツ博士は大変親切だった。なにぶん,こちらは生意気盛りなので,いま考えると赤面ものの議論をしたが,そのようなときにも熱心にこちらの質問を聞いて丁寧に答えてくれた。僕がいま若い人に,たとえ少々生意気であっても,暖かく接するのは,このような経験のおかげである。
居間でのお茶とお菓子を頂きながらの歓談の後,ゼーヴィーゼンの池を案内してくれた。池はまだかなりの部分が凍っていたが,水のあるところでは鳥が集まっており,長く続いている同性のカップルなどを細かく説明してくれた。僕はついに野外で動物を観察するような研究をしなかったが,年少のときから小動物の飼育が好きでまた上手だったし,大学での研究とは別に動物をみることはいまでも楽しい。ゼーヴィーゼンを尋ねたのは自分の大学での研究(実験心理学)とは別の研究を直接知りたかったからである。
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