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学会でも舌鋒鋭い論客として知られる宮岡等教授が,日常的には一体どんな臨床をしているのだろうと以前から興味を持っていたが,本書はまさにそれに対する回答とも言うべき一冊である。これは「どう患者を診るか」という技術書であり,「いかなる姿勢で診るべきか」という哲学書だと思う。ちょっと妙な連想になるかもしれないが,実は宮本武蔵の『五輪書』は評者の愛読書である。そこでは「剣術でいかに勝つか」を述べながら,結局は「剣とは何か」が論じられており,武士としていかに生きるかを示すガイドラインとなっている。本書はこのスタイルとの共通点が感じられ,これは宮岡教授の書いた『五輪書』だ!と直感した次第である。例えば「大半の患者は精神科外来で10分程度の面接しか受けていないが,基本的な面接を続けること自体が治療であるべき」「そのためには『良い面接』より,『悪くない面接』を心がけること」「精神面に積極的に働きかけて治そうとするより,患者に寄り添うこと」などの主張には,思わずハタと膝を打ってしまった。このあたり,まさに本書を哲学書と呼びたくなるゆえんであろう。
いや,そうは言っても,決してそこには小難しい理論が連なっているのではない。本書を読んだ読者は,あるいは不思議に思うのではあるまいか。「なぜ自分が普段悩んでいることが,宮岡先生には手に取るようにわかるのだ!」「しかも,ここにその答えがあるじゃないか!」と。そのくらいポイントを突いて臨床家が日頃困っていること,迷っていることへの武蔵流,いや宮岡流の答えが展開されているのである。例えば「自分が睡眠不足や疲れている時の面接は調子がよい時と比べて,『聞く』より『話す』ことが多くなっている。自ら話すことによって,早く面接を終えたいという気持ちがあるのであろう」という言葉にはドキッとさせられ,「今後気をつけよう」と感じたし,面接に際して「一般的にも起こりうることだが」という問いかけから入ると答えが引き出しやすい,などは診療のコツを述べた名言であろう。
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