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はじめに
“Nothing in biology makes sense except in the light of evolution1)”
「何故ヒトの脳は大きいのだろうか?」という問いに対して,多くの読者はヒト脳の容積の増大に伴う生理学的・機能的な意味,いわゆる合目的な答えを提示されれば満足されるかもしれない。あるいは「どのようにしてヒトの脳は作りだされるのだろうか?」という問いに対して,われわれは近年の分子生物学,発生生物学の飛躍的な成果を披露して答えることができるだろう。しかし,「何故ヒトの脳は他の動物と違って大きくなったのだろうか?」という問いは,形態獲得の内在的機構とそれを許した環境との歴史を問うているわけで,上記の答えを統合した,いわゆる進化学的な答えを用意しなくてはいけない。形態は機能と連関し,それらが環境によって選別されてきたのであれば,人間性(これも曖昧な言葉ではあるが)を生み出すわれわれの脳は,いつ,どのようにして他の動物と袂を分かちあったのだろうか。19世紀の偉大な古生物学・解剖学者であるRichard Owenは,類人猿と人類の脳の比較を行い,ヒト脳にのみ認められる構造物を同定し,これを「小海馬(hippocampus minor)」と名付けた2)。あるいはDNAの構造の発見で知られるFrancis Crickは晩年,大脳基底核の一部である前障(claustrum)に着目し,これこそが人間性の本質を生み出す構造物であると主張した3)。分子神経生物学,比較形態学的解析によって,脳の形態学的な差異を生み出す分子メカニズムについてはかなり多くの知見が得られているが,意外に脳の専門的研究者の間でもその研究成果は浸透していない。そこで本稿では,特に脊椎動物の大脳皮質に焦点を絞って,①羊膜類の大脳皮質の比較発生学的解析,②哺乳類大脳皮質の形態・機能的多様性の獲得を論じ,最後に③古人類から現世人類に至る過程での大脳皮質の進化に関する仮説を紹介したい。
Abstract
The cerebral cortex is one of the most intricate structures in the vertebrate brain, and enormous expansion in size and complexity are conspicuous features in the mammalian cortex. Although how the cerebral cortex evolved from ancestor brains still remains elusive, recent advances of developmental neurobiology shed light on the molecular mechanisms underlying cortical development, and also provide novel insights into the origin of the mammalian cerebral cortex. Here I introduce classical concepts and modern theories on the process for making morphological and functional diversity of the cerebral cortex. In this review, we especially focus on possible mechanism that provide 1) morphological diversity of the amniotes' cortex, 2) expansion of the mammalian neocortical areas, and 3) advancement of human cognitive abilities, based on accumulating knowledge of the comparative brain anatomy, molecular neurobiology, anthropology and cognitive archaeology
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