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はじめに
悪性脳腫瘍の中でも神経膠芽腫は膵臓がん,悪性黒色腫などと並び最も治療困難な腫瘍である。悪性神経膠腫に対しては,手術,放射線,化学・免疫療法などの集学的治療法が行われており,また最近,化学療法薬テモゾロマイドがわが国でもようやく認可となり標準治療が変化しつつあるが,その治療成績はいまだ十分な改善がみられず51),有効な治療法の開発が熱望されている。
一方で,近年のゲノム医学の急速な発展と相まって,悪性神経膠腫の分子生物学的異常の解明から治療法の開発を目指す研究が,少しずつではあるが進歩しつつある11,25,32,34,39,49,58,64)。例えば,テモゾロマイドの有効性にMGMT(O(6)-methylguanine-DNA methyltransferase)遺伝子のpromotor領域のメチル化の重要性が13),またチロシンキナーゼ阻害剤へのresponderの解析からEGFR(epidermal growth factor receptor)発現亢進,inactive PKB/AKT(protein kinase B/Akt) pathway,intact PTEN(phosphatase and tensin homologue deleted on chromosome ten)が治療反応性に重要であることが明らかになり12,26),腫瘍の分子病態異常に応じた個別化分子標的療法の選択が主流となりつつある。
近年,分子生物学の飛躍的な発展と相まって,キラーT細胞による抗原分子認識機構が分子レベルで明らかにされた。主要組織適合遺伝子複合体(Major Histocompatibility Complex: MHC)クラスⅠもしくはⅡドメインにより構成される小さな溝に,約8~15個のアミノ酸からなるペプチド分子が乗っていることが明らかにされた。すなわち,T細胞抗原受容体,標的細胞上のMHC分子,およびその分子に結合する抗原,すなわちペプチド分子がT細胞による抗原認識の分子基盤を作っていたのである。これらにより,ようやくT細胞が腫瘍細胞を認識する実体を分子レベルで解明できるようになった。このような分子生物学の進歩と前述したヒト腫瘍免疫学の進歩が,がん抗原遺伝子の同定,すなわちヒトがん細胞上でMHCクラスⅠ分子上に提示され,宿主T細胞の標的分子となる抗原をコードする遺伝子としてMAGE(melanoma antigen-encoding genes)遺伝子が,1991年Boon T博士らにより同定され52),その後の爆発的な研究発展の礎となった。これらの科学的基盤に支えられ,現代の腫瘍免疫学は腫瘍抗原という明らかな標的分子を見すえ,特異的免疫療法として飛躍的に進歩しつつある10)。
その後,腫瘍細胞のクラスⅠ上に提示されるCD8陽性CTL(cytotoxic T lymphocyte)が標的とする最小ユニットである腫瘍抗原エピトープペプチドの同定があいついで報告された。これまでに決定されたエピトープペプチドを有する腫瘍抗原は約250種類以上あり1,2,8,15-20,27,30,35,36,38,47,53-56,59),ペプチドの投与により患者体内で特異的CTLを誘導し,抗腫瘍効果を期待するがんワクチン療法が施行されてきた。欧米およびわが国を中心に多数の第Ⅰ相臨床試験が施行され,グレード3以上の有害事象はなく,ワクチンしたペプチドに対する特異的CTLの誘導が確認された症例があり,臨床効果を示した症例もあった28,31,33,37,40,44,48,65)。これらの結果をふまえ,第Ⅰ/Ⅱ相臨床試験や第Ⅱ相臨床試験が開始されている。
今回,悪性神経膠腫に対するバイオセラピーという観点から,腫瘍免疫学の進歩,ペプチドワクチン療法の現状,免疫療法の今後の展望などにつき概説してみたい。
Abstract
Despite advances in radiation and chemotherapy along with surgical resectioning, the prognosis of patients with malignant glioma is poor. Therefore, the development of a new treatment modality is extremely important. There are increasing reports demonstrating that systemic immunotherapy using peptide is capable of inducing an antiglioma response. This review highlights peptide-based immunotherapy for glioma patients. Peptide-based immunotherapy strategies appear promising as an approach to successfully induce an antitumor immune response and increase survival in patients with glioma. Peptidebased therapy of glioma seems to be safe and without major side effects. Biotherapy for malignant glioma with peptide will open a novel reality now.
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