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メトフォルミンは50年以上前から2型糖尿病の治療薬として使用されていますが,その作用機序はいまだに解明されておらず論争があります.歴史的には,血糖降下メカニズムとしては,やや薬理学的濃度より高濃度ですが,ミトコンドリア機能への作用,肝臓,筋肉でのAMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)やグルカゴン受容体刺激アデニルサイクラーゼへの作用があげられていました.最近は,静脈内メトフォルミンがレドックスシャトル酵素ミトコンドリアグリセロリン酸脱水酵素を抑制し,肝細胞のレドックス状態を変化させ,乳酸からグリセロール,ブドウ糖への変換を抑え,肝臓での糖新生を抑制すること,しかもAMPKへの作用より低濃度で作用することがわかってきました.ところが,短時間静脈内に投与したメトフォルミンは経口投与より効果が少ないことが判明し,腸管が血糖降下に重要であると注目されるようになりました.腸管での作用として,GLP-1,ペプチドYY分泌促進,胆汁酸代謝への作用,腸内細菌叢への作用が想定されています.
現在使用されているメトフォルミンには,速放されるimmediate-releaseメトフォルミン(Met IR)と徐放されるextended-releaseメトフォルミン(Met XR)(日本では未採用)が経口投与されています.哺乳類では,メトフォルミンの経口投与での生体内利用率は約50%で,小腸上部(十二指腸と空腸)で吸収され,肝臓へ輸送され,原則,抱合されず,腎臓で除去されます.重要なことに,メトフォルミンは腸管では代謝されませんので,残り約50%は小腸末端へ運ばれると,腸粘膜に集積し,その濃度は血中濃度の約300倍にも達します.経口投与されたMet IRの約30%は便中へ排出されます.メトフォルミンの吸収は輸送体の速度が律速段階であることから,1,000mgの低用量の生体内利用率は高いですが,効果は少ないことになります.小腸末端に効果的な濃度のメトフォルミンを小腸近位部の輸送体を超えて輸送するためには,より高用量(>1,500mg)のメトフォルミンが必要と考えられます.メトフォルミンには用量反応関係が明確ですが,薬力学/薬理動態関係が明確ではありません.このことからも,血中に吸収される前のメカニズムが血糖降下作用に重要であると考えられています.
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