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『糖尿病診療のカリスマ,𠮷岡成人がついに禁断の書を!?』というと大げさかもしれませんが,一気に読み通せて,まさに溜飲の下がる指南書が上梓された感があります.これまでにもさまざまな診療領域の専門医が,研修医・レジデント・非専門医に向けてガイド・マニュアル・スタンダード・必携……とあまたの指南書を発刊されてきました.そのなかで「先生の診療の奥義をひと言で」といわれて一番困っているのが,糖尿病の専門医ではないでしょうか.その理由は,このような例えでご理解いただけると思います.すなわち,糖尿病患者さんのある時点の病態は名匠の手になる総桐箪笥のようなもの,あちらの引き出しを押し込めば(ex.インスリン分泌促進系薬で血糖コントロールを下げたつもりが?),こちらが飛び出てくる(肥満したおかげでかえってインスリン抵抗性が助長されてしまう).しかもそれがどの引き出しかの予想すら結構困難な患者さんが多いのです.反対にどんな手でも取りあえず打ってみると,思いのほかコントロールがよくなって,主治医のほうが驚くこともしばしばです(血糖コントロールがとんでもなく悪いソフトドリンクシンドローム例に対して,せめて食後血糖だけでもと超速効型インスリンのみで治療を始めたのに,間もなく空腹時血糖までよくなり,やがてインスリン治療から離脱できたというのも一例).碁盤の目のような札幌の街で北東の地点に行きたいとき,取りあえず北上して東に転じても,東に行ってから北に折れてもゴールは同じなのです.
すなわち糖尿病専門医の一人でもある評者が,『溜飲が下がる』と言ったのは,まさに本書の底流をなす𠮷岡成人先生の流儀? 作法? あるいは「専門医にだってこれが一番,これが定石といえる手はありません.行き詰っておられるなら,『次の一手』は取りあえずこれでいかがでしょう?」という,一種の『照れ』に近いスタンスがみて取れます.本書を通読した読者は,これからは意を強くして目の前の患者さんに対峙できるようになられるのではないでしょうか?
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