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特集 糖尿病合併症のこころのケア
Ⅰ
糖尿病を抱えて生きる―その心理的ケア
Lifelong process with diabetes:psychological introduction to diabetes care
皆藤 章
1
1京都大学大学院 教育学研究科
キーワード:
①科学の知
,
②臨床の知
,
③物語
,
④関係
Keyword:
①科学の知
,
②臨床の知
,
③物語
,
④関係
pp.117-121
発行日 2012年3月15日
Published Date 2012/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1415101304
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はじめに
糖尿病をはじめとする近年の慢性疾患の増加は,現代医療に極めて深刻な心理的課題を投げかけている.糖尿病医療においては糖尿病者に対する全人的なかかわりが不可欠であり,そこには科学的方法論のみをもってしては十分に対処できない事態が存在することは,周知の事実である.科学的方法論を「科学の知」と総称しておくと,このことは科学の知に加えてさらに新たなパラダイムの必要性を提起する.
臨床心理学の実践である心理療法は,医学と同様に生命ある人間にこころの次元で向き合っている.そこでもまた,科学の知のみでは対処できない事態があることが自明となっており,「病いを抱えていかに生きるのか」という人間の生き方の根幹にかかわる視座の必要性が強調されている.そこで提起されている科学の知に換わるパラダイムに,ひとりの人間の生を全体としてトータルに理解していこうとする体系がある.それを「臨床の知」iと総称しておくと,臨床の知を支えるパラダイムに「物語」iiがある(Box 1).「物語」というパラダイムでは,こころは「関係」iiiという要因を抜きにしては理解できないと考える.それは,糖尿病者がその病いを抱えていかに生きるのかという視座に立つとき,科学の知に加えて「関係」という要因の考慮が必要になることを意味している.けれども,近代科学が「関係」を切断することによって自と他を分節化し,他を観察することによって客観性(evidence)を提示してきたことからすると,科学の知と臨床の知は相反する体系のように見える.しかし,糖尿病医療においては,科学の知に「関係」という要因を加えて人間を理解する実践が可能ではないか.
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