- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
ヒトの1日は平均して覚醒が16時間,睡眠が8時間からなるサイクルで繰り返されている.したがって,人生の約3分の1は眠っていることになる.この睡眠時間は本人にとっても周囲にとっても身体の状態を把握できないブラックボックスの時間帯である.呼吸は随意的に調節できる意識下の調節系と,睡眠中の呼吸のように呼吸中枢自体のリズムによって行われる無意識下の調節系の二重の調節系によって行われている.したがって,覚醒時には上位中枢による代償機序が働いているため異常所見を検出しづらいのに対し,睡眠中にはこの代償機序が低下するため呼吸中枢自体の異常を検出しやすくなる.
睡眠中に呼吸異常を来す疾患として睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome;SAS)がある.2003年2月26日に起こった山陽新幹線運転手の居眠り運転事件は大きな事故に至らなかったものの,SASが社会的問題になった出来事として記憶に新しい.SASの頻度は欧米では男性で4%,女性で2%といわれており,重症例は働き盛りの40~50代の男性に多いとされている.わが国においても欧米に匹敵するSASがみられている.SASは決して珍しい疾患ではなく,私たちの周りに多くの隠れたSAS患者がいる.SASは肥満,高血圧,糖尿病,高脂血症などいわゆる生活習慣病との合併例が多く,睡眠中の無呼吸に伴う低酸素血症により,種々の重要臓器に障害をもたらすだけでなく,頻回な断眠により過眠,活動度の低下,認知機能の低下などの精神異常を来す.過眠による種々の事故やニアミスの原因になるとして,今や大きな社会問題にもなっている.こうした状況の中,わが国においても睡眠医療を専門とする診療科やクリニックが開設されるようになり,また医学部においても睡眠学を専門とする講座が開設されるなど,睡眠学,睡眠医療が急速に進歩しつつある.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.