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このMaster Adviceは,読者の皆様が対応に苦慮している症例に対して,第一人者の先生がアドバイスする欄です.どうぞお気軽に,症例をお寄せ下さい.
Case 「知らぬが仏」
糖尿病性壊疽と高血糖で入院した50代の男性.入院後は糖尿病の学習に熱心で,将来の合併症予防のために血糖をコントロールする必要性を認識していた.医師と看護師も将来の合併症の防止や,現在起こっている壊疽の進行防止のために血糖をコントロールすると説明することで,モチベーションを高めようとした側面があった.
しかし入院中壊疽が進行し,結局足を切断することとなり,それが決まると患者は食事療法も行わなくなった.血糖コントロールに努力していたのに,合併症が進行し患者はがっかりしてしまい,その後のコントロールに悪影響を与えた症例である.
入院時に壊疽や網膜症,腎症など患者のQOLを低下させる可能性のある合併症の短期的な予後を医学的に判断し,患者に説明することは当然である.しかし本症例のように現在ある合併症の進行予防を目先の目標にして指導することは,その合併症が不運にも進行してしまったときのことを考えると,あまり行わないほうがよいのではないかと考えさせられた.そのほか,入院時にまったく糖尿病の知識がない状態で入院したが,糖尿病のことを理解していくうちに,合併症などの自分の状況を知るにつれ落ち込んでしまう患者も少なからず経験している.もちろん患者の個人差もあろうが,患者のキャラクターを見抜くのも難しい.特に既に合併症が発症している患者にあまり糖尿病の知識を与えるのは逆効果で,「知らぬが仏」なのではないかと考えさせられる症例もありジレンマである.(東京都・内科医)
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