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はじめに
見よう見まねで糖尿病外来を受け持って1年くらい経ち,Sさんが来られた.やや細身で大柄な体をまっすぐに立てて椅子に座る.視線が合わず眼が悪いのだとわかった.「眼科は?」と尋ねる私に彼はさらっと「見えなくなったら眼科にいく理由がありませんから」と答えた.
見えない人は眼科にはいかない 私にはこの現実はショックであった.そうだ,見えない糖尿病患者は眼科にはいかない,内科に来るのだ.
当時インスリン注射は使い捨ての注射器を使っていた.Sさんは手探りで実に正確に20単位を打った.だが食欲がないときインスリンを減量できず,低血糖を回避するため打つことをやめていた.見えない人のインスリン注射指導を探して平田幸正先生の考案されたインスリン定規を知った.
見えないことに適応しているようにみえたSさんだが,数年後体力の低下とともにベッドから動かなくなった.本人も周囲もなにも見えないと思っていたSさんだが,実は明暗がわかるという視覚を頼って暮らしていたのである.明暗もわからなくなった時,Sさんは自分の位置がつかめなくなり,動けなくなって弱っていった.
糖尿病で見えなくなった患者は,眼科ではなく内科の患者になる.糖尿病の視覚障害の対応は内科の課題だ,と思うようになったとき出会ったのが,全国ベーチェット協会の主催する「糖尿病による視覚障害者の援助セミナー」の案内であった.
大宮の駅前で週末2日間にわたって行われたセミナーは,視覚障害やリハビリテーションの本質を考えようというプログラムで,新鮮な驚きがあった.
そのときの講師がベーチェット協会江南施設の施設長で歩行訓練士の清水美知子さんと,施設で糖尿病のセルフケアの指導にあたる西川みどりさんであった.何回かの講演や施設見学での往来があり,この10年ほどは私の働く糖尿病外来で月1回視覚障害者のカウンセリングと勉強会を開催してきた.
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