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Case 1 入院時開口一番,インスリンはしないと言い切って研修医を困らせた1例
患者:54歳,女性,主婦.
家族歴:糖尿病なし.
既往歴:51歳時狭心症発作にてカテーテル治療.その後再狭窄にてCABG冠動脈大動脈バイパス術.52歳時腰部脊椎管狭窄症にて手術.
飲酒:機会飲酒ビールコップ2杯.喫煙49歳まで30本.
主訴:両側下肢痛.
現病歴:42歳時腎盂腎炎にて近医に入院.このときに初めて糖尿病を指摘され,一時的にインスリンを使用.その後,食事療法のみで医療機関にはかかっていなかった.51歳時狭心症発作を起こし,当院循環器内科へ入院.このときから,グリミクロン(R)40 mgが開始されていた.再狭窄のため心臓外科へ転科.このとき当科へ紹介となった.その後.グリミクロン(R)40 mgにてHbA1C 7%前後であったが,次第に上昇.ネルビス(R)(メトホルミン)750 mg追加するも,HbA1C 12.6%に上昇のため,今回,治療方針決定のため入院となった.なお,体重は3年前48 kgが現在69 kgまで増加している.
身体所見:身長149.5 cm,体重69.9 kg,BMI 31.3,腹囲93 cm,血圧152/80 mmHg,下肢振動覚15秒と正常.後脛骨動脈触知不良,ABI右0.85,左0.83と低下.
検査所見:空腹時血糖162 mg/dL,HbA1C 12.6%,T. Chol 202 mg/dL,HDL-Chol 78 mg/dL,TG 152 mg/dL,BUN 10.0 mg/dL,Cre 0.6 mg/dL,IRI 8.4 mU/mL,HOMA-R 3.36,HOMA-b 30.5%.
入院時研修医が挨拶に行くと,開口一番「インスリンは絶対いや」と言われた.そこで,内服継続,食事1,400 kcalとした.入院2日目グリミクロン(R)40 mg,ネルビス(R)750 mg服用にて血糖日内変動は182-303-297-303-249-290 mg/dLであった.採血の結果,インスリン抵抗性が亢進した状態であることが判明した.生活歴は,「日頃から少し歩くと,腰から足が痛むことと,心臓のことも心配で,まったく運動はしていなかった.」「インスリンになれば,かわいいイヌの世話もできなくなるので無理.トイレへいくときもイヌを抱いたまま」ということが判明した.心理面では「糖尿病をもつ自分の生活のことを母親が理解してくれないことへの怒り」「合併症は怖い」という思いは持っていた.そこで,本人の早く退院してイヌの世話をしたい,という思いを第一に考え,「今回は,インスリンを使って,1日でも早く血糖を下げてあげて,糖の毒を除くことにしましょう.肺炎の時に,抗生剤の点滴をするようなものです.退院の時にはやめます.」と,糖毒性をまずとれるだけとることとした.そして,運動不足がインスリン抵抗性の主たる原因と考え,まず,ベッド上での上下肢挙上体操を毎食後に開始した.また,心不全歴はなかったため,アクトス(R)15 mgも併用し,退院のころに効果が現れることを期待した.4日目よりノボラピッド(R)30ミックス朝8夕4単位,ノボラピッド(R)昼3単位開始した.8日目血糖日内変動134-196-134-88-120-129-157 mg/dLにまで改善していたため,今回は約束どおりに,10日目でインスリン中止し,11日目に退院とした.1カ月後に再度血糖上昇なら,外来でインスリン導入になることを説明し,食事運動療法の重要性を十分に説明した.うまくいけば,内服薬は減ることを強調した(実は同室者とのトラブルもあったので退院を早期にしたということもある).
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