巻頭言
専門バカ・専門エゴ
桜井 図南男
1
1九州大学精神神経科
pp.166-167
発行日 1970年3月15日
Published Date 1970/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405201584
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このごろ,専門バカとか,専門エゴとかいうコトバがよく使われる。自分の専門の学問に没頭していて,それ以外の社会の情勢などについては何も知らないし,知ろうともしないし,対処する能力もないというようなことであって,学者,あるいは研究者を嘲り,非難しているわけである。しかし,ほんとうの学問は専門バカ,専門エゴによって築きあげられてゆくのではなかろうか。いつも社会的な情勢を分析したり,改革の原理を考えたり,自分の学問が社会のために,どのように役立っているかなどと自己批判しているようなことでは,なかなか学問にうちこめるものではないだろう。
研究には無駄が多い。意図したことが,そのまま成果につながるとは限らない。試行錯誤を重ね,泥まみれになって努力してゆくうちに,ふいに思いがけないような結果がでてきたりする。研究者はいつも合目的的に行動しているわけではないのである。もちろんわたしたちの研究は,終局的には社会に役立つものでなければならぬであろう。しかし,その社会にしても,いったいどのような社会がそのあるべき姿なのかということになると,なかなかややこしい問題になってしまう。社会は急速に,あるいは徐々に変わってゆくものであろうから,変わってゆく社会のほうで,然るべく判断し,わたしたちのやった研究のうちで,有用なものだけを拾って,役立てていただきたいものである。
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