メンタルクリニック便り・2
いまどきの「うつ」の背景
市村 公一
1
1あおばメンタルクリニック
pp.605
発行日 2012年8月15日
Published Date 2012/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414102573
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■内因性と心因性
前回,教科書的な内因性のうつ病患者がいないのに「うつ病患者100万人」などというのは,病前性格や誘因を考慮しない操作的診断基準のせいだ,とお話ししました.しかし,うつ病といえばいまも内因性うつ病が主であるというものの見方に,しばしば遭遇することがあります.たとえば私の所属する医師会の主催する「うつ病講習会」は,内因性うつ病を扱うと断っています.また医師会の市民向け広報誌も「真面目で几帳面な人は要注意,励ましは禁物」と明らかに内因性うつ病を意識した内容になっています.製薬会社の医療情報担当者に「うちに来るのは心因性ばかりだけど,よそのクリニックではいまも内因性のうつ病患者が来るの?」と聞くと「そのようだ」と.しかし,私にはにわかには信じられません.
操作的診断基準によれば,病前性格や誘因を考慮しなくても,「うつ病」と診断されます.そして病前性格や誘因を考慮しなければ,内因性も心因性もないのです.精神科医としてまだまだ駆け出しの私がこんなことをいうのは甚だ僭越ですが,いまも内因性のうつ病が多いといわれる先生は,病前性格や誘因の有無まできちんと診ておられないのではないか,という気がしてなりません.実際に前医でうつ病といわれていたと転医してくる患者を診るとことごとく心因性で,前医では初診でも診察時間は10分ほどでこんなに詳しい話は聞かれなかった,といわれるからです.
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