メンタルクリニック便り・21
いまどきの「うつ」の背景
市村 公一
1
1あおばメンタルクリニック
pp.269
発行日 2014年3月15日
Published Date 2014/3/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414103154
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前回は第16回でご紹介した男性が,ステップアップしようと人事部に異動した際のつまづきの背景を探りました.病的な自己愛が邪魔して周囲に教えを請うことができず,それまでの順風満帆な人生から「異動先でも抜群のパフォーマンスを発揮して,周囲から賞賛されるに違いない」と勝手なイメージを膨らませていたがゆえに,現実とのギャップがストレスとして返ってきてしまった.営業部に戻ったのに「うつ」が再発したのも同じです.また以前のように抜群の成績をあげて周囲から賞賛と羨望のまなざしで見られると思っていたのに,ベテランばかりのチームで人並みの成績しかあげられない.誰も特別に褒めてもくれない.「なんだ,こんなところ,自分なんていてもいなくても同じじゃないか」,そう思うとやる気もなくなる.会社に行くのも億劫になる…….自分でつくり出した理想と現実のギャップでまた会社に行けなくなってしまったのです.
昔ながらの「うつ病」の時代にも,異動や特に昇進がその誘因になると指摘されていました.「昇進うつ病」という名前さえあります.これは,昇進前にはその職務を十分にこなしてきたという「自信」を,昇進したことで「喪失」したことが原因と説明されていました.しかし,本当は今回の男性のように,過剰な自己愛がその原因ではなかったのかな,と私は思います.
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