シネマ解題 映画は楽しい考える糧[34]
「ぼくを葬る」
浅井 篤
1
1熊本大学大学院生命科学研究部生命倫理学分野
pp.311
発行日 2010年4月15日
Published Date 2010/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101902
- 有料閲覧
- 文献概要
- 参考文献
「うまく」死ぬための自己決定
主人公の死を描いた作品はたくさんあります.本コラムでもイザベル・コイシェ監督の「死ぬまでにしたい10のこと」(第2回),今村昌平監督の「楢山節考」(第4回),イングマール・ベルイマンの「叫びとささやき」(第22回)などを取り上げてきました.自殺を視野に入れるとフランシス・ローレンス監督の「コンスタンティン」(第19回),そしてムラーリ・K・タルリ監督の「明日,君がいない」(第33回)も含まれるでしょう.アレハンドロ・アメナーバル監督の「海を飛ぶ夢」(2004年,スペイン)やドゥニ・アルカン監督の「みなさん,さようなら」(2003年,フランス)は主人公の安楽死を取り上げていましたね1).これらのほかにも主人公の自死や終末期のあり様を描いた作品には枚挙の暇がなく,歴史的な傑作も少なくありません.いかに社会の終末期医療に対する関心が高いかがわかります.
「ぼくを葬る」も,末期がんに罹患した若い主人公の死に様を描いています.パリで働く写真家ロマンは31歳.ある日体調を崩して医者にかかると,原発不明がんが全身に転移しており余命3カ月と宣告されます.化学療法の奏功率は5%未満.このあたりは23歳の主人公のアンが全身に転移した両側卵巣がんに罹患して予後2,3カ月と診断される「死ぬまでにしたい10のこと」と酷似しています.アンは自分が末期がんを抱えていることを誰にも打ち明けず,死ぬまでにすべき10項目をリストアップして,人生の最後を楽しむとともに自分の死後のための準備を行っていました.
Copyright © 2010, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.