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新型インフルエンザ対策に係わる感染症法の国会審議があったからかもしれないが,新型インフルエンザワクチンについての新聞報道が続いている.通常型不活化インフルエンザワクチンは,A型のうちH1N1(ソ連型)とH3N2(香港型)とB型の3種が混合されたワクチンである.国立感染症研究所が3つの流行株を毎年予想し,4つの国内ワクチン製造業者が製造している.HA蛋白質の抗原性が大きく異なる新型のインフルエンザウイルスが出現すると,それまでヒトが獲得した中和抗体では感染防御ができなくなり,ウイルスが次々にヒトに感染して数十年に一度の世界的な大流行(パンデミック)をもたらす.1918年のスペインかぜは全世界で6億人以上が罹患し,推計死者4,000万以上の大惨禍であったといわれている.
インフルエンザワクチンは抗原が変異すると効きが悪く,一番多く使われるワクチンでありながら効果が実感しにくいワクチンである.新聞報道ではわが国の対策は遅れているかのようにいわれるが,3年前に国内で臨床開発に着手したプレパンデミックワクチンは2007年10月に承認され,すでに2,000万人分の備蓄がされ,さらに備蓄が積み増しされることになっている.現在,備蓄されているワクチンはベトナムで流行した株を弱毒化したワクチン(クレード1)とインドネシア株(クレード2.1),安徽株(クレード2.3)の3種類である.プレパンデミックワクチンがパンデミックとなるウイルスに対して有用なのかは証明されていない.そのため2年前の第Ⅱ・Ⅲ相治験の際にベトナム株を摂取した被験者200人に協力していただき,インドネシア株あるいは安徽株を1回筋注しブースター効果があるかどうかをみる臨床試験が実施される.ベトナム株で基礎免疫が賦与(プライミング)されていれば別の株を接種した時に迅速に抗体価が上昇することが期待されている.またインドネシア株あるいは安徽株を接種し,接種株に対する中和抗体だけでなく他の株に対する交叉免疫性も検討する臨床試験も行われる.しかし,今までヒトが曝露されていないウイルスに対する抗体を惹起させるため抗原量も多く水酸化アルミニウムゲルのアジュバントに加わっているせいか,7割を超える人の接種部位に疼痛が発現する.通常のワクチンは10%程度なので異常に高率である.そのため6,000人を対象とした安全性調査研究も行われることになっている.こうした研究でプライミング効果が検証され安全性が担保されて初めて,備蓄されているプレパンデミックワクチンを1,000万人,さらには全国民を対象に接種できるようになる.
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