特集 ストップ・ザ・医原性疾患
【医原性疾患エピソード】
抗コリンエステラーゼ阻害薬による腹痛
八田 和大
1
1天理よろづ相談所病院
pp.956
発行日 2007年11月15日
Published Date 2007/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414101278
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10年前に胃癌で胃切除術を受けた70歳の男性が絞扼性イレウスで緊急手術となった.前立腺肥大のため加療していたが,イレウス解除術後の尿閉が強く,術後10日目より泌尿器科にコンサルト中であった.排尿困難で導尿を要する状態となったが,導尿で随分自覚症状はよくなった.しかし心窩部痛が非常に強くなり一度嘔吐.当直医がコールされるも身体所見で腹部所見に乏しく,急性胃炎か胆石症かとのアセスメントであった.その後も腹部の疝痛が続いた.外科主治医より処方されるボルタレン(R)には不応で,ソセゴン(R)も使用されていた.消化管由来か,背部に放散するため尿路由来かと考えられたが,超音波検査でも胆囊炎はなく,両腎も著変なし.内視鏡検査では逆流性食道炎のみ.採血上は術後の低栄養のためかChE 0.10IU/l以外は著変なし.胃腸炎として経過観察され,腹痛が続くまま内科を受診した.この時ChE異常低値(感度以下)を再度指摘された.泌尿器科から尿閉のため処方されていた抗コリンエステラーゼ阻害薬のウブレチド<(R)(臭化ジスチグミン)の副作用を考え同薬剤を中止したところ,腹部疝痛は消失した.薬剤による腹痛であった.
本剤は低用量であっても高齢者,脱水・低栄養状態,肝・腎機能低下などでは急性中毒を惹起しやすい.コリン作働性クリーゼの重症例の報告もあり,注意が必要である.
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