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僕が医者の働き方として「家庭医」を選んだ理由は,いろいろな人の相談にのれて,地域で役に立つ仕事がしたいということにありました.生後数カ月の子どもから,100歳を超えたお年寄りまで,幅広い年齢層のさまざまな健康問題に取り組みたいと思ったのでした.オムツかぶれの治療と,高齢者の看取りを同時にやることに自分自身の価値を見出したのです.しかし,当然,医者一人がやれる仕事の総量は限られていますから,一つの病気の診断と治療をすすめて,最後まで診切るようなタイプの「深さ」を犠牲にすることになります.仕事のバリエーションや広さを,「深さ」よりも優先したともいえます.このことは僕の性格や価値観によるところもありますが,「一つのことをずっと深く追求することがいいことだ」という現代医学界の主たる価値観になんとなく違和感を覚えていたことにもよります.
得意なところを伸ばしていく,追求していくことは楽しいことですし,快感があります.僕もかなりオタク的な志向がありますから,よくわかります.家庭医が家庭医たるゆえんの一つに,非選択的診療(どんな問題にも相談にのること)がありますが,このスタイルと好きな分野を追求していくことの間にはギャップがあります.それはどんな問題が持ち込まれるか「予習」が難しく,またそれが自分の興味とは関係ない場合も多いからです.いわば,常に自分の弱点と直面する仕事ともいえます.ただ,オタクの特徴として,一つのことを深く追求するとともに,その関連分野全般に物知りであることがありますが,幅広い分野で物知りになるという点に喜びを見出すところが家庭医にはありますので,家庭医にもオタク的な素養が必要なのだろうと思っています.
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