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Q1 骨粗鬆症の治療の目的はなんでしょうか?
骨粗鬆症の治療の目的を理解するためには,骨粗鬆症という疾患がどのようなものであるかを知る必要があります.本疾患は2001年の米国国立衛生研究所(NIH)が主催したコンセンサスミーティングにおいて,新たに定義されました1).それによると,骨粗鬆症とは骨の強度の減少により骨折が起こりやすくなった全身の骨格異常と定義されています.ここでいう骨の強度とは2つの構成要素からなり,第一の要素は骨量です.骨量を正確に測定するには本来は骨の生検が必要ですが,現在では骨密度を測定することにより代用されています.したがって骨密度の大小は骨の強度を規定する第一の要素であることになります.一方,骨の強度を規定する第二の要素は骨の質であると定義されています.ここでいう骨の質とは骨のしなりを規定する要素からなり,骨の微細構造,骨の石灰化の程度,骨の基質蛋白の量と内容,および骨の代謝動態よりなると考えられています.これら骨の質を規定する要素のうち,臨床的に最も簡便かつ正確な評価が可能なのは,骨代謝マーカーによる骨代謝動態の評価のみです.したがって,理論的には骨密度と骨代謝動態はそれぞれ独立した骨折の危険因子であり,これらを改善することがすなわち骨粗鬆症の合併症である骨折を予防しうることに直結します.
骨粗鬆症の合併症とは糖尿病における微細血管障害や高血圧症における脳血管障害と同様,骨折という不可逆性変化で表れ,結果的に患者のQOLやADLを著しく障害します.最も高頻度にみられる骨折は脊椎骨骨折であり,この骨折は日本人女性の約半数が生涯のうちに経験するといわれています.本骨折は老年女性によくみられる身長短縮の原因の1つであり,結果的に体腔の体積が減少するため内臓諸臓器機能が侵され多彩な症状を引き起こします.たとえば背が縮み,亀背という状態になりますと,胃食道逆流現象(図1)が起こって,胸焼けや胸痛で悩まされたり,肺の体積が縮小して肺活量が減り息切れを起こしたりします.脊椎骨折が起こるとその椎体の体積が減少しますが,この圧潰した椎体の体積を元に戻す方策はあまり一般化していないので,結局これら内臓異常も治癒することはないわけです.骨粗鬆症に伴う骨折で深刻な障害を残すもう1つの骨折が,大腿骨頸部骨折です.この骨折はわが国では年間約10万人程度が発症すると考えられていますが2),手術法の進歩にもかかわらず,約10~15%程度の罹患者は著しくそのADLが低下し,介護に多大な費用が必要となることが有名です.
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