読書療法 患者にすすめるこの1冊・16
『シェイクスピアの人間語録 「道化の目」で見る人生の真実』
山中 崇
1
1東京女子医科大学東医療センター在宅医療部
pp.83
発行日 2006年1月1日
Published Date 2006/1/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414100024
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学生時代にシェイクスピアの作品に導いてくれた本がこの1 冊.シェイクスピアの戯曲は900 年近く前に書かれたものであるにもかかわらず,現在にもそのまま通用する.人間の心を鋭く洞察し,人間が集まる社会での関係性についてもリアルに描出している.国が異なり,時代も大きく変わっているが,人間の変わらないものとは何かを知らせてくれる作品ばかりである.これらはいずれも,どのように行動したらよいかを具体的に示す指南書ではなく,社会をありのままに描写したものである.今日では学習の方法を詳しく教えてくれる参考書があふれているが,シェイクスピアの作品を通して生きることについて,あるいは人とのかかわり方について一人ひとりが考えてみることも大切なのだと思う.シェイクスピアのセリフはわれわれに気づきを与え,力づけてくれる.このようにして得たものが自らの血となり肉となる.体調をくずした時,悩みを抱えた時に読むと,励ましや悟りを得ることができるであろう.医学を志す者には,小手先の技術ではなく,人間の本質,生き方についての示唆を与えてくれるに違いない.
私自身は学生時代に小田島雄志訳でシェイクスピアの作品に近づき,それらの世界を思い描いた.実は,原語で読もうと現代英語に書き直したものを含め何冊か購入したものの,いずれもあえなく挫折してしまった.その後長い年月を経て,東京で劇場に足を運び,あるいはロンドンでロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの上演作品を観てきた.読書とともに上演作品を観に行くことも,本から飛び出してその世界に入ることができて楽しい.さまざまな演出方法があることにも感心させられる.
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