交見室
高齢者の術後せん妄
勝岡 洋治
1
1大阪医科大学泌尿器科
pp.965
発行日 2001年9月20日
Published Date 2001/9/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413904529
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術後回診の際,老人患者で故意に眠らされていたり,ベッドの手摺に紐でくくり付けられている場面に遭遇することがある。担当医にその理由を聞くと,夜中に点滴チューブや尿道カテーテルを自己抜去したり,粗暴な行動をとったので,已むなくそのような処置を選択したという。
二十数年前になるが,いまでも鮮明に記憶している同じような出来事がある。患者さんは人間国宝の認定を受けておられた高名な陶芸家で,当時すでに80歳をこえていたが矍鑠としておられた。健康の秘訣は何ですかとの質問には,好奇心をもち続けることですと答えられた。そして,「昨日在庵」,「今日不在」,「明日他行」と座右の銘を揮毫された本を頂戴した。この元気一杯な老人が腰麻下にTURPを施行されたその晩から,不穏や興奮などの精神症状が出現し,術後の安静が保てないとの理由で抑制帯で身体を拘束させられていた。その当時私は高齢者にみられる術後の一過性で可逆性の精神障害,いわゆる術後せん妄の知識もなく,唯々当惑するばかりであったが,間もなく回復したので漸く安堵した。それ以降も時折,この高齢者に特有ともいえる術後せん妄を経験しているが依然関心は低かった。
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