Coffee Break
百瀬先生と前立腺手術
井口 厚司
pp.66
発行日 1996年3月30日
Published Date 1996/3/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413901724
- 有料閲覧
- 文献概要
「恥骨上式と恥骨後式,どちらがよいか」。前立腺被膜下摘除術の術式について,それぞれを得意とする2派に分かれて論争があった。いまから20年近く前の日本泌尿器科学会福岡地方会であったと記憶している。恥骨上式は短時間で手術できるというのが最大の長所であった。膀胱内に術者の手が入るや,瞬く間によく熟れた腺腫がもぎ取られてくるのは,見ていても爽快であった。一方,恥骨後式推進派は膀胱を開けない手術の長所を指摘するばかりでなく,"手術らしい手術"とこの術式を表現した。まるで血の海の中に手をつっこんで前立腺を剥離する恥骨上式手術に比べ,直視下に剥離・止血する術式は手術らしいと強調した。論議は大幅に時間を超過し,収拾がつかない様相を呈してきた。思い余った座長は当時の九州大学泌尿器科教授,百瀬俊郎先生に意見を求めた。百瀬先生はおもむろにその場にお立ちになり,論戦に終止符を打たれた。『慣れたほうをすればいいたい。』
百瀬先生は外科のご出身であることから手術療法に深いご関心を寄せられ,その発展に生涯取り組んでこられた。なにより手術がお好きであった。手術が終わった日の夕方は決まって医局のソファーに腰掛け,ビールを口にされる。われわれ研修医がご相伴役を買って出ると大変ご機嫌で,手術のことをいろいろ教えて下さった。とくに先生が情熱を傾けた代用膀胱,膀胱拡大術に話題が及ぶと,ますます口調も滑らかになりビールも進んだ。ちなみに先生は恥骨上式で前立腺は手術されていた。
Copyright © 1996, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.