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1 尖圭コンジローマとヒト乳頭腫ウイルス感染症の概況
皮膚に生じる多種類のイボには皮膚科学的に多数の名称があり,その大部分は2年以内に無治療で自然消退し,日光被曝による悪性化もない。小児期に多く,本人や他人に接触伝染すること,暗示法による消失があること,稀に巨大化や悪性化があることが昔から知られている。電顕により伝染性軟属腫,尖圭コンジローマにウイルス粒子が見出された。性器に生じる乳頭状,鶏冠状,花野菜状のイボである尖圭コンジローマ(Condylomata acuminata, genital warts, Spitzen Kondylom)から1961年にウイルスが分離されヒト乳頭腫ウイルス(HPV)と名付けられた。HPVは培養不能で,ウイルス検出,抗体検出の方法は遺伝子技術の開発まで存在せず,現在,臨床的検出法はハイブリッドキャプチャーのみである。子宮頸管癌からもHPVが見出された1)。HPVは7,900塩基対のDNAウイルスで,菅生2)による58,59型を含め,100種以上の遺伝子型がある。乳頭腫ウイルスはパポバウイルスに属し,種特有にそれぞれ背椎動物を宿主とし,上皮基底細胞に感染して良性,悪性の皮膚,粘膜上皮の増殖〔イボ,squamous intraepitherial lesion(扁平上皮内異形成)またSIL, cervical intraepitherial neoplasma(頸管上皮内腫瘍):CIN〕を起こす。多数のHPV遺伝子型の各々と病変の各々との間に密接な対応関係が認められ,皮膚科学の視診による分類が本質に基づいていたことが裏付けられた(表1)。
注目すべきは,イボと腫瘍また宿主免疫との関係である。細胞性免疫欠損症である疣贅性表皮異形成症(EV)はHPV感染を伴い,30~60%に扁平皮膚癌が生じる。EVに類似した皮膚病変は長期免疫抑制中の移植患者にも生じ,良性のイボ,ボーエン病(上皮内癌),その中間のボーエン様丘疹症(SIL:自然治癒があるが組織学的にはボーエン病と区別できない)が多発する,60%超がHPV陽性である。皮膚の扁平上皮癌,基底細胞癌の20~80%がHPV陽性である。免疫抑制状態のエイズ患者や妊婦では尖圭コンジローマが巨大化することがあり,悪性化もみられる(Buschke Lwenstein腫瘍)。尖圭コンジローマには免疫賦活剤の有効性が知られる。増殖速度が異なる各種のイボに対する免疫反応による抵抗性,自然治癒率の相違は,増殖の遅い表在性膀胱腫瘍に有効なBCGが浸潤性には無効である事実とも符号する。
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