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本誌第46巻第6号の東論文,「太田母斑の色調と真皮メラニン量との関係について」(臨皮46:419,1992)を興味深く拝読致しました.現在,皮膚の色調の定量評価を試みている者の眼から疑問点を2,3述べさせていただきます.
まず,著者は太田母斑の肉眼的色調はメラニンの深さによって決まるのでなく,真皮上・中層でのメラニンの水平方向での密度により決められる,と結論づけておられますが,肉眼的色調を考える上で,反射型分光光度計測で明らかにされている皮膚の光学的特性を知っておく必要があると思います.皮面で反射した光と,皮内の色素(chromophore)で吸収されず,backscatterして外部に出てくる光の和が色として感じられるわけですが,真皮に入射した光は,短波長のものほど(つまり青)上層でback scatterし,深達しません1).次にメラニンは,可視光では短波長のものほどよく吸収する性質があります2).つまり,メラニンが皮膚の表層にあるほど青色光吸収し,相対的に黄色(緑+赤)っぽく見えます.一方,メラニンが真皮の深くにあれば,青色光はメラニンに吸収される前に外部にbackscatterし,より長波長の緑や赤だけ下方に到達し吸収され,その結果青く見えることになります.この現象は何もメラニンに限ったことでなく,皮膚のもう一つのchrolnophoreであるヘモグロビン(青・緑に吸収領域)でも同一で,真皮上層の出血が赤っぽく見えるのに,皮下出血が青く見えるのはこのためです.現在進行中で誌上には未発表ですが,私どものCCDカメラとコンピュータを用いた色調解析でも上述の現象が確かめられています.したがって,chromophoreが表皮下に存在する場合は真皮の光学的特性が影響してきます3).つまりchromophoreが同密度であっても真皮のどの深さに存在するかで色調が微妙に変化してきます.その意味で,著者の言われる真皮上中層という用語がいかにも大雑把で残念に思われました.さらに表皮内メラニンの多寡(無染色で決めたほうがよいと思います),毛細血管内の血液量も,多層構造をもつ皮膚では重要な色決定因子になることはいうまでもありません.
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