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私は,1999年に大分医科大学(現 大分大学医学部)を卒業し,同大学皮膚科に入局した.入局希望のために私が皮膚科医局の事務室に挨拶に伺ったところ,当時の講師の先生から「コーヒーをいれてあげよう!」と拍手とともに歓迎されたことを記憶している.入局後,病棟担当医をしながら上級医の先生方の外来の手伝いをしつつ日常診療の手法を勉強させていただいた.気づけば,既に入局後26年目を迎えようとしているが,今の私の診療スタイルは入局時にコーヒーを振舞ってくれた講師の先生に近いものを感じている.もちろん,教授をはじめ他の諸先輩方からも多くのことを教えていただいたが,患者さんとの接し方としてはその講師の先生と重なる点が多い.その講師の先生は現在,別の大学病院の教授となられているが,患者さんの診察時に診療とは無関係なことを1つは聞くようにしていると言われていた.これは私も実践しており,患者さんが何気なく発した日常の喜びや愚痴をカルテに記録しておき,次の外来日に「あの件はどうなりましたか?」と尋ねるようにしている.すると多くの患者さんは喜んで,「先生,覚えていてくれたんですね!」と言って話も弾み信頼関係が深まる(多少,診療時間が延長するが).その積み重ねのためかわからないが,患者さんに「調子はどうですか?」と聞くと「すごく良いです」と言われるので,「では薬の足りない分を処方しましょうか?」と聞くと「薬も余っています」と言われる人がいる.つまり,当日,私が診療することは何もないので,律儀に予約を守らずに予約を変更しても良かったのにと思っていると「先生と話すと安心しますので」と言われることがある.患者さんはその日は特に診療を受けずに帰っていくのだが,笑顔で診察室を後にする患者さんを見送る.次の予約日まで患者さんが安心して過ごせるのであればそれで十分か,と思いつつ医者になって良かったと思う一瞬である.
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