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文献紹介 アトピー性皮膚炎における黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌の株多様性の検討
柳澤 絵里加
1
1慶應義塾大学
pp.857
発行日 2018年10月1日
Published Date 2018/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412205544
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アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)は,先進国の子供の10〜30%が罹患する炎症性皮膚疾患であるが,多因子疾患であることから患者間で臨床経過,重症度や治療反応性が多様である.AD患者の皮膚細菌叢に関するこれまでの研究では,培養分離株に対する従来の分類法や細菌のマーカー遺伝子解析が用いられ,株ごとの遺伝子欠損や一塩基変異を解析することができなかった.ショットガンメタゲノミクス(サンプル中の全微生物ゲノムの塩基配列を決定するための手法)は,細菌叢の種から株レベルまでさまざまなレベルでの多様性の解析を可能にした.この論文では,ショットガンメタゲノミクスを用いて小児AD患者群における臨床経過を通じた細菌動態の解析を行った.AD増悪時の種レベルの解析から,重症例においては黄色ブドウ球菌が優位であり,軽症例においては表皮ブドウ球菌が優位であることが示された.一方,株レベルの解析では,すべての患者では多様な表皮ブドウ球菌株が発現していたことに対し,重症例では黄色ブドウ球菌における単一株の発現が明らかになった.さらに,AD患者と健常人からの黄色ブドウ球菌分離株をマウスに移植し,株レベルでの生物学的影響を解析した結果,黄色ブドウ球菌は株ごとに異なる皮膚炎形成能や免疫応答能を示すことが明らかになった.重症AD患者から分離された黄色ブドウ球菌株は,表皮肥厚と皮膚2型ヘルパーT細胞および17型ヘルパーT細胞の増殖を誘導した.本研究は,細菌叢の高分解能解析,培養,さらに動物モデル研究を組み合わせることにより,黄色ブドウ球菌株の機能的差異がADの多様な臨床像に寄与する可能性を示唆する.
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