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組織の恒常性は年齢とともに衰えるが,これは一部には組織幹細胞の再生・分化能力が衰えるためである.皮膚において,紫外線によるミトコンドリアのDNA障害は光老化の一因であると報告されているが,表皮再生におけるミトコンドリアの機能はほとんどわかっていなかった.Velardeらは,表皮の再生におけるミトコンドリアの機能を解析するために,表皮特異的にミトコンドリア活性酸素分解酵素:superoxide dismutase 2(Sod2)を欠損させたコンディショナルノックアウトマウスを作成した.このマウスでは表皮細胞におけるミトコンドリアは活性酸素が除去されず,その機能障害を生じる.表皮特異的Sod2欠損マウス(以下,K14Sマウス)の老年マウスでは表皮が菲薄し創傷治癒は遅延したが,驚くことに若年マウスでは創傷治癒は促進された.若年のK14Sマウスの創傷治癒過程では創縁における顆粒層が肥厚し,ロリクリンなどの細胞分化関連遺伝子の発現量が増加し,サイクリンA2などの細胞増殖関連遺伝子の発現量に変化は認めなかった.よって,若年マウスにおいて,ミトコンドリア機能異常は細胞分化を促進し,創傷治癒を促進すると考えられた.一方で老年のK14Sマウスの創傷治癒過程においては,CDC20などの表皮幹細胞関連遺伝子の発現量が低下しており,K14Sマウスでは老年期において表皮幹細胞が枯渇していると考えられた.実際に老年のK14Sマウスにおいて,細胞老化マーカーであるsenescence-associated β-galactosidase(SA-βgal)およびp16INK4aの発現量は増加していた.さらに若年のK14Sマウスに強力な発がんプロモーターである12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA)を外用し細胞増殖を強制的に促したところ,表皮は菲薄化し老年K14Sマウスの表皮とほぼ同様の表現系を呈した.このことは,ミトコンドリアの機能異常が表皮幹細胞の枯渇を促進することを支持するデータである.表皮特異的なSod2欠損は,若年マウスにおいては細胞増殖の抑制と細胞分化の促進をもたらし,創傷治癒を促進させる.一方で老年マウスでは,表皮幹細胞の枯渇を介して,創傷治癒遅延をきたすことが示された.
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