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制御性T細胞(regulatory T cell:Treg)は自己免疫性疾患の発症の抑制,過度な炎症の抑制を生体内で行っているとされているT細胞である.Tregには胸腺において前駆細胞からの成熟段階で分化するthymic Tregと,末梢組織においてナイーブT細胞から分化するinduced Tregが存在するとされている.これまで胸腺におけるthymic Tregの分化には自己抗原のみが関与すると考えられていたが,本論文ではこの分化に外来抗原である腸内細菌が関与している可能性を示している.
はじめに,T細胞受容体(T cell receptor:TCR)のβ鎖を固定したTCRminiマウスを用いて,胸腺,腸管および所属リンパ節のT細胞を比較した.TCRは通常その多様性を得るためにα鎖とβ鎖がどちらも可変的であり,認識抗原を解析することは困難であるが,このマウスではβ鎖が固定されているため,α鎖の配列のみを網羅的に解析することでTCRのレパートリーを統計学的に検討しうる.その結果,腸管のTregはナイーブT細胞を含む腸管のT細胞とではなく,胸腺のTregと類似したレパートリーを持っていた.このことから腸内細菌に対するTregは,腸管においてナイーブT細胞から分化したinduced Tregではなく,thymic Tregが分布したものであることが示唆された.次に,抗生剤投与により腸内細菌を変化させたところ,抗生剤投与後に胸腺と腸管に共通したパターンでTregのレパートリーが変化し,腸内細菌の変化が胸腺のTregに影響を与えることを示した.さらに,大腸のTregからハイブリドーマを作成し,その中から実際に腸内細菌と反応するクローンのTCR配列を解析した.このTCR配列を持つTregが胸腺にも存在することを確認し,胸腺と腸管のTregが腸内細菌に反応するクローンを共有していることを示した.以上より,腸内細菌抗原に対する免疫寛容は胸腺ですでに分化したthymic Tregに担われ,その認識抗原は腸内細菌の変化に影響される可能性が示された.
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