Derm.2015
免疫療法の時代を迎えて
福島 聡
1
1熊本大学大学院皮膚病態治療再建学
pp.122
発行日 2015年4月10日
Published Date 2015/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412204420
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2014年夏,ついに免疫療法である抗PD-1抗体ニボルマブがメラノーマに対して承認された.ダカルバジン以来,40年ぶりの新薬である.抗CTLA-4抗体イピリムマブが日本で承認されるのも時間の問題であろう.両者とも免疫に感受性の高いメラノーマで初めて効果を立証したが,なんと肺癌や消化器癌などにも有効だという.科学誌『Science』は,2013年の科学界で最も大きなブレークスルーとして,癌免疫療法を選んだ.
メラノーマを私の専門と決めてから,これまで実に多くの患者さんをお見送りしてきた.それぞれの方との間に忘れられない思い出がある.Kさんもそうである.大学院生時代のラボでは,患者さんのリンパ球から癌抗原特異的キラーT細胞を誘導する研究をしていた.Kさんにも採血をお願いしたところ,仕事柄屈強な腕をまくり,病気を治す研究のためなら,どんどん使ってください,と言ってくれた.でも,この実験がうまくいっても,患者さんに使えるところまで行くにはまだ何年もかかるのですよ,と言うと,いいよ,同じ病気の人の役に立つなら,と笑っておられた.それから,化学療法で入院するたび,外来でお会いするたびに,「先生の免疫療法はまだですか?」と明るい笑顔で冗談っぽく私に聞いてこられるのが挨拶となった.そして私は,すいません,まだなんですよ,と答えるのだった.いよいよ最期のとき,Kさんは細くなってしまった手で,驚くほど強く私の手を握ってくれた.「先生の免疫療法はまだですか?」という声が聞こえた気がした.
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