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近年,さまざまな医者がいるものである.かく言う私も庭木のローレルにルビー(ロウ)カイガラムシがついたので,どうしたものかと思っていたところ,新聞広告の通信教育講座に樹医研修講座があるのが目につき,勢いで申し込んだ.樹医は上級職である樹木医と異なり,実習がなく主に月1回の課題提出ですみ,最後に修了試験を受け,約1年で取得できた.晴れて,ダブルドクターとなったわけであるが,それから2年,いまだ1本の樹も助けていない.くだんのローレルについたルビーカイガラムシは,激しく寄生しているところを剪定し,冬季にイオウ剤で消毒したものの,葉っぱが六十ハップのにおいになり枯れて,しばらくカレーに使用できなかった.しかし,まだローレルは元気なので,これが生きながらえれば初の治療例となるかもしれない.
樹木の世界では,病気になった樹は主に他へ病原体を伝播しないように伐採されることがほとんどである.有名なのがマツノザイセンチュウに侵された松,いわゆる松食い虫にやられて枯れた松である.他の仲間のために,自らの命を終わらせるのであるが,幸いなことに樹は恨み言を言わない.稲佐の浜にある弁天の松も数年前に枯れた.この浜は神在月(出雲では10月をこう呼ぶ)に神様がお越しになられる当地出雲では有名な浜である.大切なお宮の松なので,地方ニュースになり,松食い虫によるものか,はたまた,黄砂からの化学物質で枯れたのかと憶測が飛んだが,樹木医の診断の結果は老衰であった.診断がつくこと自体がすばらしく,その診断もどこに禍根を残すことのないもので安堵した.ともすれば,樹木は生命が長いため,永遠に続くものと思われがちであり,それは昨今の医療の発展により人においても同様なことがうかがえる.日々の診療では,「痛い」や「かゆい」などと言われ治らないのは医者が悪いと恨み言を言われることがある.樹医を勉強して思うことは診断を正しく伝え,いずれは迎えるそのときに恨み言なく仲間のためを考えることが,地球に生きるものとしての使命であり,そうでなければ現状の地球の資源を消費するに値しないのではということである.
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