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東北帝国大学医科大学に皮膚病学・黴毒学講座が設けられたのは大正6年9月11日でありますが,皮膚病学の講義は明治40年(医専時代)から初代科長の遠山郁三教授によつてなされておりました。したがつて当教室は,今年(昭和42年)で満60周年を迎えることになります。以後の歴代科長は,2代太田正雄教授(1926〜1937),3代伊藤実教授(1937〜1957),4代高橋吉定教授であります。それぞれに著しく個性的な,当代錚錚たる学者を主任に仰いだ当教室の歴史は光輝に充ちたものであります。幾多の輝かしい業績を遣された遠山,太田両教授がかつて当教室において御研鑽なされたことを憶いますとき,まこと私どもは身が引緊るおもいが致します。21年間の御在任中,アレルギー性皮膚疾患,メラニンの研究に多大の業績を報告された伊藤実名誉教授は,古稀の齢を越された今日でも矍鑠として研究を続けられ,学会においては後進に貴き助言と鞭撻とをお与え下さつていることに唯々敬服致しております。現科長の高橋吉定教授は昭和32年に順天堂大学から転任されました。御承知のように教授は医真菌学の泰斗で,戦後のわが国医真菌学会の発展に主導的役割をはたして来られましたが,また太田正雄教授以来一時途絶えていた当教室の医真菌学研究を再興されました。外柔内剛の御性格は,生半可な妥協の許されぬ医学の厳しさを,つね日頃身をもつて私どもにお示し下さつております。
教室における研究の中心が皮膚真菌症,医真菌学におかれていることは申すまでもありません。その研究内容は甚だ多岐,多方面にわたつておりますが,ことに昭和43年第67回日本皮膚科学会総会が仙台において開催されますことから,宿題報告としてとり上げられるこの方面の研究に一層の拍車が加えられております。主な研究内容を申し上げますと,高橋(伸)の猩紅色菌の研究以来,真菌の形態学的,生物学的ならびに生理学的研究は継続して行なわれ,最近ではノカルジア菌(笠井),星芒状菌および趾間菌(牧野)についてなされております。螢光抗体法を用いた白癬の免疫学的研究,白癬菌の同定,分類(三浦)は,さらにカンジダ(斎藤),ノカルジア(笠井)にまで発展されております。私ども臨床家の研究は,あくまで臨床的問題に結びついていなければならないとの教授のお考えから,白癬の発症病理に関する研究もつねに研究テーマとしてとり上げられております。毛白癬(大沼)については既に検討されましたが,現在は組織の電顕的観察をも併用して爪白癬(秋葉,棚橋),頑癬(佐藤)の発症病理について研究が進められております。また高橋(伸),藤山は,全身性異常と皮膚真菌症との関係という難問題を研究テーマにとり上げております。入局以来10年間,各種皮膚疾患の組織化学的研究に情熱を打込んでいる笹井は,当教室においては特異かつ貴重な存在でございます。
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