Derm.2014
Blaschko線とキリンのまだら模様
馬渕 智生
1
1東海大学医学部専門診療学系皮膚科
pp.36
発行日 2014年4月10日
Published Date 2014/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412103998
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皮膚科医になってBlaschko線を勉強していたときに思い出したことがあります.キリンの斑(まだら)模様の発生機序について論じられた,いわゆるキリンの斑論争です.
子供の時分から読書好きであった私が中学時代に読みあさった文庫本のなかに,岩波文庫の寺田寅彦随筆集がありました.優れた物理学者でもあった寺田寅彦の随筆のなかには,身近な事象を独自の発想で深く洞察した科学エッセイも多く含まれています.その寺田寅彦の弟子である物理学者の平田森三が,乾燥した粘土の表面に生じたひび割れとキリンの斑模様が似ていることから着想し,生物の斑紋は発生初期に細胞表面に生じた割れ目に由来するという説を提唱しました.当時の生物学者から強く反論され,議論するも,やがて互いに感情的になり不毛な論争に終わってしまったのがキリンの斑論争です.後に寺田寅彦も「割れ目と生命」という論文で,飼い猫の白地に黒ブチ模様の発生機序などを加えて考察しています.現在では,斑紋や縞模様はチューリングパターン,すなわち反応拡散波と呼ばれる化学反応の組み合わせによって発生する波によって生じるとされており,平田説は否定されています.しかしながら,Blaschko線は胎生期皮膚が生育していく線であるという概念を考えるにつけ,強ち間違った考えとも思えません.
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