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皮膚科学における研究分野の勢力図を見てみると,少なくともここ数年間はimmunologyやkeratinocyte biology, signal transductionなどの領域の仕事がplenary sessionの過半数を占め,非常に活発な分野になっている.そしてなによりも,これらの分野に新しい優秀な先生方が次々に登場している.一方,色素異常症やmelanocyte biologyの分野は研究者人口が漸減しており,例えば日本皮膚科学会支部総会でメラノサイト関連の発表をしても,聴衆の集まりは悪く閑散としていることが多い(それでも,同じ顔ぶれの先生方が少しでも盛り上げようと,いつもと同じような質問をしてくださるご配慮には心温まるものがある).ちょうどそれは,私が学生生活を過ごした東北地方の小都市で中日ドラゴンズの話をしても,誰も私の話に乗ってこず,気がついたら,周りの人たちは勝手に別の話題で盛り上がっていたという,たびたびの経験に相通じるものがある.ところが,同小都市でもドラゴンズの話題で数時間にわたって大いに盛り上がることがある.年に1回開かれる愛知県人会の席である.ドラゴンズが優勝しようものなら,さらに大変で,会の始まりから終わりまで,ドラゴンズ優勝シーンを放送するラジオ放送がエンドレスで大音響とともに流され,参加者は乾杯を重ねる.
では,メラノサイト研究ではどうであろうか.やはり年1回開かれる日本色素細胞学会年次学術大会がある.メラノサイト研究者が一堂に会してお互いの1年間の成果を発表し合い,意見を交換する学会である.皮膚科の学会ではやや寂しい思いをしているわれわれ皮膚科医メラノサイト研究者にとって,どちらを向いてもメラノサイトばかりの楽しい集まりである.医学部基礎講座,理学部,農学部,研究所,企業,そして皮膚科のメラノサイトに興味をもつ研究者によって構成され,その構成員の多様性を反映するように演題の内容も幅広い.ダンゴ虫やホヤから始まり,爬虫類,鳥類,そしてヒトの肝斑,メラノーマに至るまでのありとあらゆるメラノサイトに関する最先端の発表がなされる.会員数約250名の小さな学会で,どの参加者も気取りがなく,アットホームで和やかな雰囲気である.しかし最近,問題が生じている.会員の平均年齢が毎年ほぼ1歳ずつ上昇していることである.そこで老若男女の皮膚科医の先生方(気持ちさえ若ければ歓迎!)を日本色素細胞学会にぜひお誘いしたい.日頃の臨床から離れて年に一度で結構ですから,ぜひ一緒にダンゴ虫や熱帯魚のメラノサイトについて想いをめぐらせませんか? 目の前の肝斑やメラノーマも,ひょっとすると違って見えるようになるかもしれません.
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