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1.はじめに
1963年12月より2年間,ニューヨーク,マウントサイナイ病院神経科に留学した。当時わが国で唯一の電動式回転室と,完成されて日も浅いENGを使用してまとめた博士論文の結論から,回転後眼振検査は眼振方向優位性の検出には勝れているが,片側迷路機能低下が判定できないことが明らかとなった。前庭機能検査として重視されていた回転検査の問題点を知り,新たな転機を掴むべくeye centering system,oculomotor decussationを報告されたMB Bender先生のもとで研究生活を始めた。毎週土曜,眼振や異常眼球運動の患者を供覧するBender先生の神経症候学臨床講義に出席する以外は,リサーチフェローとして,猿を相手の実験の毎日で,当時は動物愛護の規制がゆるやかで,自由に手に入る猿に脊髄離断を行い,人工呼吸,無麻酔で前庭神経核とその周辺部の電気刺激による眼球運動を調べる仕事であった。
Rhesus monkeyの脳電気刺激誘発眼球運動は興味深い。Stereotaxic AP0,laterality 1mmで垂直に脳表面より深部に同心双極電極を刺入し,0.1msec 200Hz50pulsesの刺激を加えると一連の眼球運動が観察される。大脳では両眼の刺激反対側への共同偏位,上丘でも同じ,下丘に入ると刺激側へ共同偏位,中脳中心灰白質で特有な発声を聞き,滑車神経核で反対側単眼の内旋・下転,MLFで同側単眼の内転,PPRFで強力な同側への共同偏位,そして,最後に外転神経根刺激による同側単眼の外転で締めくくられる(図1)。
眼球運動の研究報告は膨大な数であり,全てを網羅することは到底できないが,現在考えられる眼球運動の神経回路図を試作した(図2)。諸先生のご批判を仰ぐ次第である。
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