鏡下咡語
一医学研究者の独言
阪上 雅史
1
1兵庫医科大学耳鼻咽喉科
pp.642-643
発行日 1995年7月20日
Published Date 1995/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411901170
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手術と論文
本年4月で医師となって丸15年が過ぎた。臨床的意味付けも理解しないで基礎研究に没頭した大学院時代,扁摘・エンピに明け暮れた香川医大時代,人並みの家庭生活を送った憧れのミネソタ留学時代,耳の手術と論文書きに追われた阪大時代,管理職となってマネージメントが要求される現在と歩んできたが,脳裏から常に一つの事が離れなかった。それは研究と臨床は車の両輪の如く両立するのか,もっと世俗的な言い方をすれば多くの手術をしながら論文を書けるのか,臨床をしながら一流の研究が出来るのかという疑問であった。
私自身手術もそこそこに,臨床研究・基礎研究の論文もそこそこにこなしてきた。しかし,耳や上顎や喉頭の手術を千例以上やりかつ臨床・基礎研究にも立派な業績を残された先達がたくさんおられる。そういう超人の先生方を別にすれば,私のまわりでは手術に賭けている人は論文を書くのを好まず,逆に論文に夢中になる人は手術を好まないのが常であった。確かに手術をすると体力を消耗し,手術後に(多くは夜中に)論文や実験をするのは効率が悪い。朝から出来たらと何度思ったであろうか。片や,黙々と実験をしたり論文を書いたりしている人もいる。私は耳鼻科は外科系であるので手術は必須であると思っている。手術をしない人が出て来るのは外科系教育職の選考基準に問題があると思う。論文数やimpact factorが主で手術の症例が加味されない。私自身も経験したが,これからは業績のpresentationが必要になるであろう。もっとも,手術の好きな人も余った時間で論文にまとめる事はもちろんであるが。
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