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はじめに
「日帰り手術」ということばに筆者が最初に出会ったのは,1991年,栃木県地方部会から講演の機会を与えられた際に,森田 守前自治医科大学教授から頂戴した演題名“耳手術で日ごろ考えていること—日帰り鼓膜形成術を中心に—”であった。この日本的な「日帰り手術」ということばに愛着を感じその後の講演,学会発表で度々使わせていただいてきた。一方,同様な意味の言葉として,“One day surgery”,あるいは,簡略して“Day Surgery”なども散見されるが,欧米での“Mini-mum invasive surgery”とも同じ主旨の言葉と解釈される。最近,この外来での手術あるいは最小限の入院での手術が国内でも見直され,各科領域で盛んに行われるようになってきた。耳科領域での導火線になったのは「フィブリン糊を用いた鼓膜形成術(接着法,1989,湯浅)1)」であり,その後,鼻内内視鏡手術など,従来長期入院を要した術式が新しいデバイスの使用により大幅に改革されている。
さて,鼓膜穿孔の存在は単に伝音難聴という聴覚上の問題もさることながら,耳漏の頻発,水泳の制限など多くの支障をもたらす。鼓膜の穿孔を確実に閉鎖する方法としては従来から入院での鼓膜形成術,あるいは,鼓室形成術が主流であったが,フィブリン糊を用いた接着法の開発,その後の多くの追試報告により,この「日帰り」もしくは短期入院の鼓膜形成術が従来の方法に替わりつつある。以下,本方法の手技,適応・禁忌,注意点などについて述べる。本法は手技が簡素化され,最小限の侵襲の術式であるが,手技そのものは逆に高度の技術を要するもので,一般の鼓室形成術を行える技量を持ち合わせることが必要である。
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