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術後性頬部嚢胞(Postoperative Wangenzyste以後,PWZ)は,昭和2年2月20日,大日本耳鼻科会九州地方会第84回集会において久保猪之吉教授が「上顎洞炎根治手術後ニ現レタル頬部嚢腫」として最初に発表記載された疾患で我々は日常しばしば経験するものである。この疾患の症状の一つにゲルベル隆起Gerberscher Wulst(以後,GW)がある。さて昭和63年熊本での第27回日本耳鼻科学会でのPWZの術式について私の発表の際,GWを「下鼻道側壁の鼻腔内への隆起」として述べた。すると東大分院の市村恵一講師からGWの解釈に誤まりがあるのではないかと御質問を受けた。すなわちGWとは「鼻底から鼻腔に生じた膨隆である」と。同時にフロアーにおられた北村武,曽田豊二両教授も「鼻底説」が正しいと述べられた。私はそれまでGerberの原典を知らず一般教科書の知識からGWは下鼻道外側壁の膨隆とばかり思い込んでいた。私の愛用している耳鼻咽喉学(河田政一・他編,改訂2版,金原出版,昭和40年)にも濾胞性歯芽嚢胞の項に「下鼻道の外壁が膨隆し,いわゆるGWを形成する」とあり更にPWZの項には「鼻腔側壁が洞内嚢腫のため内方へ圧迫されると鼻閉塞,鼻漏,嗅覚障害を来し鼻底部を圧迫してGWを来すこともある」とある。また図1を見ると側壁を内方への圧迫と同時に鼻底部の上方への圧迫像が認められるのでこの文や図からはどちらとも判断することが出来る。日耳鼻学会編集の耳鼻咽喉科学用語解説集(改訂2版,金原出版,平成元年)には「GWは下鼻道の外壁,歯槽突起の部分に形成された嚢胞による半球状の隆起をさす」とありこれらからは外壁説に誤りがないように思われる。そそこでもう一度GWとは何か,PWZの一症状か文献的渉猟を行いながら考えてみた。
まず「外壁説」をとる教科書としては新耳鼻咽喉科学(切替一郎著,南山堂,1967)があり濾胞性歯芽嚢胞の項に「下鼻道側壁に所謂GWを認める」とあり,さらにPWZの項にも「鼻腔側壁を内方へ圧し鼻閉,鼻漏,GWをおこす」と書かれている。すなわちGWが「外壁の膨隆」とともにPWZの症状であることを記している。更にこの本が1983年,切替一郎,野村恭也編となり改訂されてからも同説をとっている。しかし付図からは外壁説とも底説とも理解することが出来る。
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