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はじめに
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive SleepApnea Syndrome,以下OSASと略記)の手術的治療は過去十年間画期的進展をみた。従来,外科医にとって盲点であった,夜間のみに起こる上気道閉塞を手術的に治療する道が開かれて,今後本症候群の治療面で耳鼻咽喉科医の知識と技術に対する期待がますます増大していくように思われる。歴史的にみると,1969年にKuhloらが病的肥満のPickwickian症候群患者に行った気管切開術がOSASの手術的治療の最初の試み1)である。彼らはこの方法で睡眠時に起こる上気道閉塞部位を新しく作られた気道により回避できるため患者に劇的な症状の消失がみられたと報告している。以来,長年の間,気管切開術がOSASの手術的治療法の主流と見做されていた。
1980年,筆者がOSASの新しい手術的アプローチとして,Uvulopalatopharyngoplasty, UPPP(口蓋垂軟口蓋咽頭形成術)の術式と最初の12名の重症患者に行った術後成績をアメリカ耳鼻咽喉科アカデミー総会で発表して以来,全米各地の耳鼻咽喉科医や睡眠障害専門医の興味を喚起し,多くの追試が行われた2)。その結果UPPPが,これまで君臨していた気管切開に代ってOSASの手術療法で最も頻繁に行われる手術法となった。しかし本法を重症のOSASの患者に無選択に行った場合には,すべての患者に同じような反応がみられるわけではない。ある症例では全く劇的な自覚症状の改善(過剰睡眠症身体疲労感の消失)をみ,他覚的にもpolysomnogramで無呼吸発作の消失と酸素飽和度の正常化がみられる一方,自覚症状では患者自身が良くなったと報告していても,他覚的検査ではそれを裏づける結果がみられず,術者の期待を裏切る場合もしばしば起こる。この術式の有効率は,患者の選択,術者の技術,および疾患の重症度などの影響による変動はあるが,一般に50〜60%と報告3)されている。UPPPに全く反応を示さなかった症例や,部分的反応はあっても他覚検査上依然として無呼吸症候群が治癒の段階に達していない症例の多くは,下咽頭部閉塞が合併していると考えられる。
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