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Ⅰ 突発性難聴の病態と治療
突発性難聴は40~50歳代に好発し,急激に発症して高度の感音難聴をきたす原因不明の疾患であり,2001年の厚労省研究班調査によると,わが国では年間約35,000人が罹患する。本症の欧米での定義は,「連続する3周波数音域で,30dB以上の難聴が,3日以内に発症したもの」とされ,わが国とは若干異なっていた。しかし社会の国際化に合わせ,今年よりわが国でも欧米の定義を用いることになった。急激に発症する感音難聴でもウイルス感染や内耳出血,外リンパ瘻など原因が明らかな場合は突発難聴と総称し,例えばムンプス難聴のようにそれぞれの名称で呼ばれる。従来,本症の発症原因としてウイルス説が有力であったが,最近になり,①本症ではWillis動脈輪を構成する後交通枝の血流障害がみられる1),②本症の患者はその後の脳卒中発症のリスクが高い2),③患者の多くに脳卒中と関連深い遺伝子多形(SNP)がみられる3),④MRIなどの画像検査で内耳の高濃度蛋白貯留や内耳出血が認められる例が多い4)など,本症を内耳循環障害と結びつける報告が相次いでいる。また,本症の臨床所見が失明の原因として頻度の高い網膜静脈閉塞症と類似していることも循環障害説を示唆する(表1)。われわれは「何ら誘因なくある日,突然に発症する」という本症の特徴から,発症には内耳の循環障害,特に虚血が関与すると考え研究を進めてきた。その過程で循環障害説の最大の問題点である「突発性難聴では再発が稀」な理由として,内耳には虚血耐性という現象がみられることを証明した5)(図1)。
現在のところ,突発性難聴には「エビデンスに基づいた治療法」は確立されておらず,従来からの経験に基づいてステロイドを中心とした多剤併用療法が汎用されている。しかし完全治癒率は30%程度であり,著明改善を含めても治癒率は50~65%にすぎず,多くの患者は難聴や耳鳴りなどの後遺症に悩まされている6)。最近になりステロイドの鼓室内注入療法が注目され,一次治療が無効な症例の二次治療として,あるいは一次治療の薬剤投与と併用して実施されている7~10)。また,ステロイドの代わりにinsulin like growth factor-1(IGF-1)を鼓室内に投与する研究11)も行われ,画期的な新規治療法として期待されている。しかしこのような治療を行っても,一次治療無効例の二次治療の成績は50~60%程度といわれ,さらなる治療成績の向上が求められている。
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