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Ⅰ.はじめに
舌痛症は容易ならない疾患である。たかが,舌の痛みと捉えれば患者を更なる苦悩へと押しやることになる。実際,重症化して日常生活に大きな支障となり苦悩されている患者も少なくない。舌痛症はこと舌のみの疾患と捉えれば理解できない。多彩な合併症,身体症状を伴うことも多く,全身疾患の一つの症状と捉える必要がある。症状の背景には多かれ少なかれ必ず心因性の要素が存在する。人は長い人生の中で不安,苦しみそして悲しみなどを適切に処理できない状態に追い込まれることがある。不安を感じないとする人においても意識化できない世界において巨大な不安・葛藤を抱いている場合がある。
不安の表現型にはいろいろあるがその一つに『原因不明の身体症状』で不安を表現する場合がある。舌痛症はその一つとして捉えることもできる。人を単に機械と捉えれば治療人としては技術,テクニックを磨けばよいが,人は機械ではなく精神をもった存在である。個々人は全く違った環境で育ち,違った価値観をもっている。その容易ならない舌痛症の患者の多くは,耳鼻咽喉科を受診する。耳鼻咽喉科には手術が必要な多数の患者も来院する。その手術は繊細かつ特殊なものが多く習熟には良い指導者と時間とを必要とする。同時に,耳鼻咽喉科には,舌痛症,自発性異常味覚症をはじめ咽喉頭異常感症,めまいそして耳鳴などとその発症に心因を有する疾患も数多い。これら疾患に対しては当然に医学知識が要求されるが,それのみでは対応できないことがある。その最たる疾患が舌痛症と筆者は捉えている。
耳鼻咽喉科医は多忙である。多くの手術患者に対応しながらも精神医学,心理学の知識を積まなくてはいけない。経験も積まなくてはいけない。医師として,人として成長しなくてはいけない。耳鼻咽喉科は外科医とする先生方には舌痛症は,興味のない疾患,うっとうしい疾患と捉えられがちではあるが,医療に限らず,興味がない,あまり価値がないと思うものの中に大きな落とし穴があったりする。大きな落とし穴に患者を落とすことも,自分が落ちることもあり得る。その代償は辛くて大きい。しかし,興味なく,価値のないものと思われる舌痛症を理解し,患者と接することで思いもよらない発見と喜びがある。この発見と喜びは医師として味わえる満足感とはやや異質なもので,人としての幸福感・充実感に類似する。以下に諸氏の舌痛症の理解の一助となるべきその特徴を記し治療法についても言及してみる。自己研鑽に役立てていただければ幸いである。
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