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Ⅰ はじめに
わが国の臨床では,小児の睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:以下,SASと略す)1)は,成人SASに準じた診療が行われてきた。したがって,施設によっては成人SASと同じ検査法,診断基準を用いてきたところも少なくない。小児の睡眠時無呼吸症候群についてGuillminaultら2)は,成人SASを提唱したのと同じ1976年に,終夜ポリグラフ検査(nPSG)所見を含め,成人とは異なる病態を示すことを報告している。しかし,その後,診断クライテリアなどのコンセンサスが形成されないまま30年あまりが経過し,2005年になって,改訂された国際睡眠障害分類第2版(international classification of sleep disorder:以下,ICSD2と略す)のなかで,小児の閉塞性睡眠時無呼吸(pediatric obstructive sleep apnea:以下,POSAと略す)は,はじめて診断クライテリアが明記され,独立疾患として扱われるようになった3)。
POSAにおいても,確定診断にはnPSGを必要とする。しかし,わが国における小児に対するnPSGの実施数はまだ少なく,2006年に58認定医療施設(日本睡眠学会)のうち17施設から回答を得たアンケートでは,小児のnPSGの施行数は,1年間に合計118例,最高37例,1施設平均6.9例/年であった。この理由として,POSAは潜在患者も含めると相当数に上るが,小児のためのnPSGに十分な経験をもつ技師,医師が少ないこと,成人の検査に比較し,小児では3,4倍人手がかかり(米国では成人PSGでは被験者2人を技師1名が担当することが多いのに対し,小児では被験者1名に対し2人の験者で対応することが多く),わが国の保険診療内では,人件費含めカバーしきれないという問題が存在する。したがって,現在,すべての患児をnPSGで診断することは現実的には不可能である。もちろん,必要と考えられるすべての小児がPSG検査可能となるよう,医療体制を整備する必要があるが,ここでは,nPSGにとどまらず,POSAの特徴,特に,成人との違い,共通点を把握し,現在できる診断や病態の評価に役立つ検査の理解へとつなげたい。
1999年の米国睡眠学会(以下,AASMと略す)の成人SASの診断クライテリア4)では,患者の自覚症状を重視し,無呼吸,低呼吸など呼吸イベントの持続時間は10秒以上と定義,無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:以下,AHIと略す)が5回/時としている。一方,ICSD2のPOSAでは,いびき,努力性呼吸と関連する覚醒反応,多動,攻撃的行動などの臨床症状,さらに成長の遅れなど小児独特の病態が重視され,呼吸イベントの持続時間を2呼吸周期以上,AHI>1回/時を診断クライテリアとしている。まずはこの理解の下,検査を考えていく必要がある。以下に概要を示す。
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