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Ⅰ はじめに
1.甲状腺癌
甲状腺癌は内分泌系悪性腫瘍としては最も頻度が高いものであり,病理組織学的に濾胞細胞由来の乳頭癌,濾胞癌,未分化癌,傍濾胞細胞由来の髄様癌に大別される。乳頭癌,濾胞癌は未分化癌に対して分化癌と呼称される。甲状腺腫瘍における最も有用な質的診断法は穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology:FNA)であるが,乳頭癌,未分化癌,髄様癌では高い正診率が得られその診断は比較的容易である。しかし,濾胞癌とその良性型である濾胞腺腫の鑑別は脈管侵襲あるいは被膜浸潤の有無によって規定されるため1),転移巣が存在しない限りFNAの結果に基づいて良・悪性鑑別診断を行うことは不可能であり,確定診断は病理組織学的検査に委ねられる。このため濾胞性腫瘍は良・悪性の鑑別なく手術に供されるが,術後に濾胞癌と判明するのはそのわずか10%程度に過ぎず2,3),本来不要な手術が多く行われているのが現状である。また,FNAで乳頭癌が偽陰性と診断されることも決して少なくない4)。一方,血清腫瘍マーカーとしては髄様癌のカルシトニン,CEA,分化癌のサイログロブリンがある。前者は非常に鋭敏な腫瘍マーカーであり補助診断として有用であるが,後者は分化癌だけでなく濾胞腺腫や慢性甲状腺炎など種々の甲状腺疾患で高値となるため腫瘤の術前鑑別診断としての有用性は低い。したがって,こうした状況を打開するために,甲状腺癌,特に濾胞細胞由来の甲状腺癌の有用な腫瘍マーカーの確立が希求されている。
2.galectin-3
Galectinは,①約130アミノ酸からなる糖鎖認識ドメイン(carbohydrate recognition domain:CRD)の配列相同性,②β-ガラクトシドに対する結合特異性,で規定されるレクチンから成るプロテインファミリーである5)。哺乳類では現在までにgalectin-1から -15までの存在が報告されている。Galectinは蛋白のドメイン構造により3型に分類される。①2つのCRDが非共有結合性の2量体をつくるプロト型,②1本のポリペプチド鎖上に1つのCRDと別のドメインが存在するキメラ型,③1本のポリペプチド鎖上に2つの異なるCRDが存在する直列反復型。すべてのgalectinは,N末端アセチル化・遊離リボソームでの生合成・遊離システイン残基の存在・シグナル配列の欠如といった典型的な細胞質蛋白としての属性を有する。Galectinは主に細胞質に存在するが,細胞膜,核にも存在し,またシグナル配列を欠くにもかかわらず細胞外に分泌される6)。
Galectin-3は分子量30kDaの唯一のキメラ型galectinであり,12アミノ酸からなりリン酸化を受けるセリンを含んだN末端領域,グリシン・チロシン・プロリンに富みコラーゲン様の配列が反復しmatrix metalloproteinase(MMP-2,-9)の基質となる領域,CRDを含むC末端領域,の3つの領域から構成される。Galectin-3はCRDを介して複合糖鎖のN-アセチルラクトサミン構造を有するさまざまな糖蛋白あるいは糖脂質と結合し,同時にN末端を介して会合し多量体(5量体)を形成すると考えられている6)。癌細胞においてgalectin-3はこのようにして細胞間を架橋し,微小血管内での腫瘍塞栓の形成,血管内皮細胞への腫瘍細胞の接着を促進することを通して,転移に関与していると考えられている7,8)。また,galectin-3は細胞増殖や血管新生,アポトーシス抑制など多様な生物学的活性を有することが報告されており6),甲状腺,大腸,肝臓などさまざまな組織で癌化に伴いその発現が増大することが知られている9~11)。一方,galectin-3は単球やマクロファージなどの免疫系細胞でも発現されており,炎症の制御にも関与している6)。
本稿ではgalectin-3を指標とした甲状腺腫瘍の術前鑑別診断におけるわれわれの取り組みを紹介する。
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