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Ⅰ はじめに
急性中耳炎は耳鼻咽喉科の日常診療においてしばしば遭遇する細菌感染症であり,病原菌としては肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリスの頻度が高く,急性中耳炎の3大起因菌といわれている1)。細菌感染症は,現代医学が発達するはるか以前から人類を脅かしてきた古典的な疾患群であるが,細菌感染症の局所で何が起こっているかについては,いまだに解明されていないことも多い。また,抗菌薬の発達が細菌感染症の治療を激変させて予後を著しく改善させた一方で,近年では耐性菌の出現などの新しい問題が生じているのも現実である。すなわち,細菌感染症の局所病態の解明は現在でも基礎医学の重要な一分野であり続けている。
細菌感染症の基礎研究にはさまざまな動物実験モデルが使用されてきたが,中耳炎モデルは敗血症モデルで致死率を求めるような短期的な研究には不向きである一方,致命的になりにくいため,感染後の炎症反応の経時的な観察に適している2)。当科では,1980年代より中耳における細菌感染症の局所病態に注目し,新潟大学で行った実験と留学先の米国ミネソタ大学Otitis Media Research Centerでの実験の成果を統合する形で研究を進めてきた。ミネソタ大学では,筆者の留学当時Otitis Media Research CenterのdirectorであったGiebink教授が開発したチンチラ中耳炎モデルを用いて,肺炎球菌の病原性の本態を明らかにするとともに同菌が惹起する中耳炎の局所病態を観察した。新潟大学においては,新しい動物実験モデルとしてモルモット中耳炎モデルを開発し,インフルエンザ菌とモラクセラ・カタラーリスで中耳炎を惹起して中耳腔内の局所病態を観察した。両施設での実験を合わせると,急性中耳炎の3大起因菌である肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリスのすべてについて中耳炎モデルで研究したことになる。
筆者らの一連の研究においては,まず細菌の構成成分の何が中耳において病原性をもつかを証明し,一方,中耳腔内では宿主の反応で生じるどのような機序で炎症が発現されるかを解明することを目標としてきた。1990年代後半からは,それまでに行った実験手技と成果を応用して,急性中耳炎や滲出性中耳炎の臨床症例で注目されてきた炎症性サイトカインの作用動態を動物実験の中耳炎モデルにより解析した。さらに,基礎研究で得られた成果をもとに細菌感染症の治療における工夫について考察してきた。
本稿では,中耳における細菌感染症の局所病態について,筆者らがミネソタ大学と新潟大学で行った研究の成果を中心に概説する。
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