鏡下咡語
蝸牛内リンパ電位(EP)研究の思い出
草刈 潤
1
1筑波大学
pp.218-220
発行日 2003年3月20日
Published Date 2003/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411101019
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2002年3月末日をもって筑波大学を定年退官いたしました。東北大学と筑波大学合わせて合計30数年にわたる大学生活をふりかえってみると,いろいろ懐かしい思い出もありますが,ここでは私が蝸牛電気生理研究を始めた頃に行った内リンパ電位(EP)研究について述べたいと思います。
1971年の暮れに片桐教授より,当時米国ミズーリ州セントルイス市のワシントン大学Thalmann教室に留学中であった教室の先輩である三好保先生の後任のお話が小生にありました。三好先生の帰国にあたり,Thalmann教授から後任をぜひ東北大からと依頼されたとのことでありました。当時私はちょうど平衡器官の電気生理研究で学位を取ったところでありましたが,蝸牛の生理をやっていた留学候補者が急に都合が悪くなり,同じ電気生理ということで私にお鉢がまわってきたわけです。諸先輩とも相談しこのお話をお受けすることにし,1972年の6月から2年間留学を致しました。Thalmann教授は当時としては数少ない内耳の生化学の専門家で,凍結乾燥した蝸牛の各部位を分離してATPなどの物質の濃度を測定するという極めて特殊な技術をもっておりました。この技法により得た生化学的な結果と電気生理学的所見とを対比させて内耳研究を行うというのがThalmann教室の主な研究テーマでありました。蝸牛研究の経験がなかった私にとって果たして上手く蝸牛内リンパ電位(EP)などがとれるかどうか大変不安であったのですが,三好先生がご自分の研究の都合で2か月近く滞在を急遽延期したので引継ぎの時間が十分となったのは小生にとって幸運でありました。
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