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物事を議論する際に考え方の違いはあるのが当然とされているが,医療においてはあまりいろいろの考え方があると説明を受ける患者は当惑しセカンドオピニオンが必要と感じるであろう。このようなことがあると医事紛争の裁判でも困ることが知られている。たとえば,鑑定書が書かれる場合にも経験やそれに基づく考え方による場合にはかなり見解が分かれることがある。結論的には難しいことはわかるが,標準的な治療ガイドラインがないことが問題となる。昨年2月に行われた日耳鼻の医事問題ワークショップで取り上げられた急性喉頭蓋炎による訴訟例の討議の中でも,救急医の書いた鑑定書が耳鼻咽喉科医のものより被告にとって厳しいものとなっていることが指摘された(森山寛教授)。呼吸困難に対する治療の標準的ガイドラインの作成が困難なこともあるが,実際に作られていないことが判断の違いを生んでいると感じた。どの時点で,どのような方法(気管切開か挿管かなど)で気道を確保するかは,その患者が置かれている状況,医師の技術レベル,設備などによっても異なるので,標準的なものを作ることは難しいであろう。しかし,このようなものがないため,特に裁判経験の少ない専門家は彼らのレベルを基準に考えて医療水準を高めてしまうことがあり得る。医療水準についての判断も流動的であるが,専門家ほどそれを高くしてしまう傾向があるかもしれない。ある弁護士によると,厚生労働省の研究班で発表されたもの,学会の教育セミナーで講演されたものは医療水準にされ得るという。そういうことであれば,全員参加はあり得ない学会で行うセミナーには,頭に「教育」というのをつけるのを避けて臨床セミナーとしておくほうが無難である。このように,考え方の違いはいろいろなところで感じられるが,ここでは診断,治療についての考え方の違いについて述べてみたい。
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