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患者:56歳,男性
主訴:右顎関節痛
既往歴:脳出血(1978年,内服治療中,日常生活は問題なし)。
現病歴:1年前より出現した間欠的な右顎関節周囲の疼痛が咬合により増強し近医歯科でマウスピースを作製したが変化がないため当院歯学部にてMRI検査を施行した。画像上,右側頭下窩神経鞘腫疑いの診断のもと(図1),当科を紹介された。
現症:右顔面三叉神経第2,3枝領域の知覚低下以外は,耳鼻咽喉科領域に異常所見は認めなかった。
経過:臨床症状,画像所見にて,側頭窩下三叉神経鞘腫と診断し,患者および家族への十分な説明,同意後に,2004年9月下旬に全身麻酔下にて経頸部アプローチによる顕微鏡下腫瘍摘出術を施行した(図2)。
手術所見:皮膚切開後(図3),浅頸筋膜皮弁を挙上,胸鎖乳突筋前縁で内頸静脈,総頸動脈を上方へ剥離した。耳下腺後下極を上方に剥離,挙上し,下顎靱帯,顎二腹筋後腹を切断後,副咽頭間隙へ入り,内頸動脈,舌下神経,迷走神経を同定,温存した。茎状突起筋群を切断すると,被膜に包まれた嚢胞状の腫瘍下極が露出した(図3,4)。この段階で顕微鏡を導入し,腫瘍と周囲結合組織とを慎重に剥離した(図5,6)。腫瘍は卵円孔まで達していた。迅速病理で神経鞘腫の診断を得たのち,被膜外に摘出した。顕微鏡下に残存組織,出血などがないことを確認し,深部にペンローズドレーンを留置,顎二腹筋,茎突筋群,皮下,皮膚を縫合して終了した。
経過:右顔面三叉神経第2,3枝領域の知覚低下以外は合併症はなく,咬合時顎関節痛は軽減し10月上旬に退院した。2005年3月中旬現在,外来にて経過観察中である(図7)。
考察
三叉神経鞘腫は比較的頻度の低い脳腫瘍で,その中でも頭蓋外のみに存在するタイプは約5%である1)。進行が緩徐なため,無症状あるいは軽症なまま経過し,発見時は大腫瘤を形成している症例が多い。治療の選択としては,無治療のまま経過観察,手術,放射線治療などがある2)。耳鼻咽喉科頭頸部外科医が日常外来にて経験する機会は少ないが,頭蓋外腫瘍で若年者の場合は,その後の長期の経過中に神経症状が出現する可能性もあり,われわれが関与する手術が必要と考えている。
この場合の腫瘍摘出法は,経上顎洞法,facial translocation法,Le Fort 1型骨切り法,経翼突法,infratemporal fossa approach,subtemporal approachなどがあるが3),手術侵襲が大きいため,われわれは頸部よりアプローチし頭蓋底部処理を顕微鏡下で行う比較的低侵襲な手術を試みた。この術式は,頭蓋底(最深部)までの十分な視野で,微細な構造物を判別できるという利点があるが,手術操作範囲が狭く,既存の開創器あるいは剥離器具では不十分であり,また術者の手術手技の熟練も必要である。
頭頸部領域神経鞘腫が,MRI検査により術前診断が比較的容易になり,被膜内摘出術でも再発は稀であるが4),今回は腫瘍周囲の癒着が強く被膜外摘出を選択した。現時点では経過良好だが,神経鞘腫術後の再発や悪性化の報告もあり,十分な経過観察が必要と考えている。
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