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Ⅰ はじめに
喉頭は呼吸,気道反射,嚥下,発声などの多彩な機能に関係する。呼吸,気道反射,嚥下は生命維持に直接関与する重要な機能である。また,発声機能はヒトが音声をコミュニケーションの主要な方法として用いるので,反回神経麻痺に伴う発声機能障害は患者のQOLを大きく損う要因と考えられる。反回神経麻痺による発声機能障害の根本的な原因には,支配神経の障害による声帯内転運動障害と内喉頭筋萎縮による声帯ボリュームの縮小が関係する。これまでも,反回神経麻痺による発声障害の治療には,甲状軟骨形成術に代表される喉頭の枠組みを操作して声帯を他動的に内転させる方法や,声帯のボリュームを増加させるためにコラーゲンや脂肪を注入する方法など静的喉頭機能再建術が主に施行されてきた。一方,動的な喉頭機能再建術としては反回神経縫合術などが検討され,良好な治療結果の報告1)もみられるが,本治療法によって発生することの多い声門閉鎖筋と開大筋の過誤支配の問題については依然として完全な解決には至っていない。また,内喉頭筋への神経筋移植も考案されているが2),いまだに一般的には臨床応用されていない。
近年の医用工学の急速な進歩に伴い,脱神経によって麻痺した筋(群)に微小電気刺激を加え正常に近い様式で筋収縮を引き起こし,失われた運動機能を回復させる機能的電気刺激(functional electrical stimulation:FES)が注目されている。本治療法は脳梗塞や脊髄損傷後の複雑な運動機能回復にも応用されつつある。耳鼻咽喉科領域では,人工内耳に代表される感覚機能を補助する機能的電気刺激が広く臨床の場で普及している。一方,喉頭領域における運動機能に対する機能的電気刺激としては,喉頭ペーシングに関する研究3~5)がいくつかこれまでに報告されているが,広く応用される状況には至っていない。
本稿では,反回神経麻痺の治療として機能的電気刺激による声帯運動障害への効果と脱神経後の内喉頭筋に生じる筋萎縮に対する効果について,主に動物実験で得られた研究成果を概説したい。さらに,反回神経麻痺の治療法としての機能的電気刺激法の今後の発展性についても言及したい。
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