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近年,欧米の先進諸国では,「糖尿病」が急増しており,それに伴い糖尿病網膜症を代表とする糖尿病眼合併症が失明原因の第1位となっています。また現在,本邦でも成人の失明原因の第1位は糖尿病網膜症です。1998年に発表された厚生省糖尿病実態調査によれば,本邦では約690万人の糖尿病患者がいると推定されています。これは実に40歳以上の成人10人に1人が糖尿病患者であることになります。さらに糖尿病の予備軍を含めますと,1,370万人と倍増し,その数は10年後には2,000万人を超えると推定されています。そして,その中で眼底に糖尿病による何らかの異常所見,すなわち糖尿病網膜症が認められる頻度は,糖尿病患者全体の約30〜60%と推定されています。
またすでに1989年には,本邦の視覚障害者の失明原因は,糖尿病網膜症が約18%で第1位となりました。そして,現在でも糖尿病網膜症が成人の失明原因の第1位であることに変わりはありません。さらに近年,糖尿病の急増に伴い,糖尿病網膜症をはじめとするさまざまな眼合併症を有する患者が増加していますが,そのような患者は他にも高血圧,高脂血症,腎症,動脈硬化,冠動脈性心疾患,神経障害そして足壊疽などの全身の合併症を有することが多く,さまざまな合併症を合わせ持った糖尿病患者が増加しています。したがって,われわれ眼科医が糖尿病網膜症の経過を追跡したり治療するときには,その患者における網膜症以外の全身合併症の状態と血糖コントロールの状態を把握しておく必要があります。なぜならば,糖尿病網膜症のために視力障害が出現しているような患者では,すでに腎障害や神経障害,そして動脈硬化が出現している可能性が高いからです。さらに,腎障害を有する糖尿病患者の眼科的手術を行う際には,腎障害の程度により,点滴量やその内容,そして抗生剤の種類と量や投与法を変えなければならない場合が起こりえます。
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