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ガイドライン時代の指針と戦略
本年度の「臨床眼科」増刊号のテーマには緑内障を取り上げました。タイトルは「緑内障診療ガイド—今日の戦略」です。阿部春樹氏の特別寄稿にもありますように,現在世界的にもevidencebased medicine (EBM)に基づいた医療の標準化が求められ,主要疾患ごとの診療ガイドラインが作成されつつあります。緑内障分野では欧州緑内障学会のTerminology and Guidelimes for Glau—comaや米国眼科学会のPreferred Practice Pet—ternシリーズなどがあり,日本緑内障学会でも阿部氏を中心に検討がなされ近々発表されます。
従来の医療では個々の医師の知識や経験を尊重した裁量権が広く容認される傾向にありました。しかし急速に進歩する現代医療では疾患概念は刻々変化し,情報化とともにグローバル化し海外の新しい治療方法も瞬時に導入されます。個人の経験を頼りに医療水準を維持するには限界がある時代です。医療現場で経験の少ない治療を導入するのは勇気のいることですが,多施設,無作為,前向き試験結果による診療指針があれば導入しやすくなります。ガイドラインが発行され,それが患者にも流布すると,緑内障のように生涯にわたり医師と患者が共同で作業していく慢性疾患では,最新の知識を共有することでコミュニケーションを維持しやすくなります。EBMで認められた治療を優先することで診療効率が上がり,医療経済にも貢献することが期待されます。しかし,いったんガイドラインが発表されると,それがすべての基準になり,本来個々人ごとに異なってしかるべき病態に対し,一律に固定された治療や結果が期待され,誤った責任問題が発生しかねません。それを避けるためには,ガイドラインはかなりおおまかで,制限された表現にならざるを得ないかと推測します。もともと病態も不明で治療方法にも論議の多い緑内障ではなおさらのことで,ガイドラインはあくまで指針であり,治療を細かく規定するものではありません。そこでガイドラインの重要性を認識しっっ,議論の多い点については豊富な経験に基づく私的見解と治療戦略を示していただき,読者の日常診療に役立てたいというねらいから桑山泰明氏とともに4人の方々のお知恵をお借りし今回の増刊号を企画いたしました。
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