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私が駆け出しの研修医のころ,当然ながらまわりのヒトビトは皆偉い方々ばかりに見え,また何をやっても出来ないこと知らないことだらけで,意気消沈の毎日だった。そのようななか,毎週1回のクリニカルカンファレンスで,発表者に対して偉い先生方がよく訊ねることの中に,「で,これについて『デュークエルダー』には何と書いてあった?」という問いかけがあった。これに対して発表者が当然のように,「えー,これこれこういうことが書いてありました」と答えると,「ふむ」ということで,「デュークエルダー」というのは水戸黄門の葵に近いものかと,何もわからない新参者にもそれだけはよくわかった。「デュークエルダー」がご威光のある書物で,とにかくこの本を引いておけばいいんだ,ということはわかったのだった。
その後,幾星霜,「デュークエルダーとはDuke-Elder著のSystemof Ophthalmologyのことで,全15巻は1958年から1976年にかけて出版されたこと,そしてDuke-Elder自身は1978年に亡くなっており,当時まだ私は医学生で眼科医にもなっていなかった,ことがわかる。眼科医になり数年たって,論文に引用するため,何度かこのSystem of Ophthalmologyを図書館で調べることはあったが,書き馴れぬ論文で頭がいっぱいで,門前の小僧の私は「デュークエルダー」に特に興味を持ちもしなかった。ところが最近とみに,このSystemof Ophthalmologyが素敵にみえる。年を取ったお蔭でしょうか(?),System of Ophthalmologyを手元において,いつか全部読んでみたい,と思っているのだ。なにせ20世紀半ば過ぎに書かれた本であるから,21世紀になろうとする今,疾患概念や治療法は書かれた当時より当然変化しているが,System of Ophthalmologyでおもしろいのは,時代が変わっても変わらぬ項,たとえばGeneral considerationsやHistoryの項で,特に楽しいものがふんだんにちりばめられている挿画が「イカして」いる。挿画は,写真あり絵画ありカリカチュアあり,などなどで,眺めているだけでも,ときに「!」の楽しさである。
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